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[コメント] 魔界転生(2003/日)

全篇に渡って、作り手の本気度を感じない。安直な音楽を安易に垂れ流す編集も最悪。B級的な饐えた味わいにすら乏しい。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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リメイク作なのだから、オリジナルの深作版と比較されるのは宿命であるし、むしろ深作版との違いを見るのが愉しみのひとつに含まれてもいる筈。それが嫌なら、比較を絶した作品を作る必要があるだろう。

本作のラスト・シークェンスに於ける決闘シーンなど、深作版が激しく炎上する城内を舞台にしていたのに対抗して嵐と雨にしたのは明白だと思う。結果としては、やはり炎の迫力には負けている。炎に触れることには身命への危険が伴うが、雨に濡れても風邪をひく程度の話でしかないのが痛い。そして天草四郎(窪塚洋介)との対決シーンに移ると今度は、火の粉が雨のように降ってくる、というどっちつかずな画に転じてしまい、あぁやはり風雨では迫力不足なんだなと情けなくなる。

魔界転生した者たちの瞳がCGでギラリとする表現がまるで効いていないとまでは言わないが、深作版の、血の気の失せた死体の冷たさを感じさせるメイクと比べると、弱い。

柳生宗矩が魔界転生するシーンも、深作版のような無念の強さ、その直前まで善玉の代表格だった人物が、武道家としての執念という或る意味、真っ当な感情によって悪に転ぶ驚きなどが、本作では弱すぎる。最後の対決も盛り上がらないのはそのせいでもある。

どのキャストも揃って、何だか煮え切らない演技ばかりの中では、麻生久美子は健闘していた方だと感じた。彼女の体を引き裂いて徳川家康がコンニチハするシーンなど、『富江』風のスプラッターを取り入れたところが深作版との差別化を感じさせる。もっとそうした演出を徹底させてくれていたらよかったのだが、エロスな描写の半端さと相俟って、作品に生々しい狂気の香りを塗り込めるには至らず。

キャスト面では、深作版での若山富三郎の偉大さを再確認させられることに。武蔵役の長塚京三は迫力ゼロだし、宝蔵院役の古田新太は頑張ってはいるが、多少の演技の頑張りでは古田新太であることを打破しえていない印象。

それに、宝蔵院と十兵衛(佐藤浩市)の決闘シーンで、超ロングのショットが入るのも意味不明。岩に打ちつける波飛沫とか凄いだろと言いたげな画ではあったが、カットが重なるにつれてカメラが退きすぎ、岩も波も遠ざかり、ただ「空間」だけがそこにある。闘いそのものから距離を置くようなショットを挿入したのは何なのか。チャンバラ=アクションへの感性が欠けた演出家の、このシーンをどう扱うべきか分からない様ばかりが際立つ。

また、編集にも疑問を覚える箇所が幾つか。例えば、おひろ(黒谷友香)とお雛(吹石一恵)が城に呼ばれてどこかへ連れて行かれたかと思ったら、次のシーンでは吹石の背中に矢が刺さった状態で馬に乗って逃げている、という繋ぎ。この省略がテンポのよさを生んでいるかというと否であり、前振りなしに出来事だけ繋いでいっているように映じてしまう。

(評価:★2)

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