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[コメント] 燃えよドラゴン(1973/米=香港)

ブルース・リーの肉体の躍動という点では、広い空間で存分にアクションするシーンが少ない気がして不満。リーに詰まらないスパイ活動などさせなくていい。リーが少年に武道の教えを説く名シーンは、その台詞回しにさえ肉体と魂の躍動を感じさせる。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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大会前夜に女たちを供された選手の内、黒人空手家・ウィリアムス(ジム・ケリー)は複数の女を選び、白人格闘家・ローパー(ジョン・サクソン)は、島に着く直前に船上から見つけて「自分自身を発見できる女だ」とリーに漏らした女一人を選ぶ。リーはスパイとして侵入していた女を呼んで相談を行なう。ウィリアムスは不用意に外に出たせいで、侵入捜査をしていたリーと間違われて殺され(しかも女たちの嘲笑に囲まれての惨殺)、ローパーは生き残りはするが、ラストシーン、運命を感じていたあの女が絶命して横たわる姿を目にすることになる。この女、そのふてぶてしい表情からしても、完全にハンの側の人間という印象がある。だがリーは、妹と母の墓前で「母さんは反対するだろうね。母さんの教えに反するんだ。妹も哀しむ」と呟いての陰鬱な出発を経て、大会でも、妹を誘拐しようとして自死に導いてしまった敵への復讐心を押さえ切れずに止めを刺した際に、怒りと哀しみと悔いとが極限に達したような、これ以上ないほど悲痛な表情を見せる。こうした一連の描写に対して、「女」を執着心の暗喩として捉える見方も出来なくはない。それは、欲望の対象であろうと、純愛に近いものであろうと、切実な家族愛であろうと、理性的な抑制を利かなくさせるものになりかねないわけだ。

最後の、鏡の間でのリーとハン(シー・キエン)の決闘は、リーが敵を目で追う姿が、自身の鏡像を探しているようにも見え、ボイス・オーバーで被せられるまでもなく、冒頭シークェンスで師匠が言っていた「敵とは残像であり幻影である」という教えの視覚化だ。鏡を破壊したリーが遂に倒したハンは、ハン自身が壁に刺した槍に貫かれて、ウィリアムのようにその遺体が宙に吊られる。この辺は、言わばリーが自らのダークサイドと対決しているようなシーンであり、マスター・ヨーダがひょっこり顔を出してもおかしくない気がしてくる。師の教えに反して悪に染まった敵、という設定も含めて、ジョージ・ルーカスも結構参考にしたんじゃないかと思える。また、ハンの鉤爪がリーの体に傷を加えていき、リーが追い詰められる様を視覚化する演出も効いている。

ただ、リーが広い空間で敵と格闘するシーンが少ないのが僕には不満だ。地下室での闘いは息苦しいし、最後の決闘直前の、大会会場に於ける乱闘シーンも、リー以外に味方が何人か加わることで、どうにもゴチャゴチャした、まとまりのないシーンとなってしまっている。

リー作品では常に銃は、肉体ひとつで闘うリーを脅かすものとして登場するが、今回は控えめ。だがやはり、銃を装備した連中が乗り込んだヘリが現れたところで劇終。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ジェリー[*]

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