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[コメント] フール・フォア・ラブ(1985/米)

埃っぽく、乾いた荒野の、安っぽいモーテル。薄いドア。ピンク色の壁を照らすスタンドの灯り。車体の塗料の剥がれや窓ガラスの汚れ。被写体に刻まれた時間の痕跡が、崩壊の予兆と共に、人の営みの体温をも感じさせる。あのハーモニカの響きが今も耳に残る。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭の寂しくうらぶれた雰囲気や、暮れ時の燈と青の光が美しい。

延々と続く二人の男女の痴話喧嘩は、憎しみと愛情の表現が常に裏腹。メイがエディへの恨み事や罵倒の言葉を練習するのを窓の外から見つめるエディが、却って彼女に優しく上着を返してやるシーンが特に印象的。メイの肉体の撮り方が優れている。或いは、エディが突き破ったドアを、メイが思いっきり閉めたせいで、ドアの一部がポトリと外れて穴が空いてしまうのを捉えた何気ないショットも、拒絶の態度が逆に二人の離れ難さを感じさせるこのドラマを象徴している。この前半のシークェンスは実に繊細かつエロティック。

視覚的な美しさが際立つこの映画、メイとエディの近親相姦という関係のドラマなどよりも、ドアの傍に立つドレス姿のメイが、外からの強烈なヘッドライトを浴びた姿や、回想シーンでの、暗闇の中に現れる牛の群れ、といった唐突なイメージが鮮烈だ。

とはいえ、ナレーションと回想シーンとの、ささやかだが決定的な齟齬や、二つの家庭を往き来した父親、異母兄妹の間に芽生えた宿命的な愛情が両方の家庭を破壊する展開、砂漠のモーテルというシチュエーションが、家、住み処の不安定さとシンクロしていることなど、細部の微妙な照応関係が織り成す劇的構成には感心させられる。モーテルでの、全く無関係な人の出入りさえ、巧く劇的要素として働いている(特に幼女が外にとり残され、父母が気づいて部屋に招き入れるシーンなど)。

ドアの破壊、窓ガラスを打ち破る銃弾、ベッドの破壊、といった派手なアクションが、沈滞しがちな雰囲気を揺り動かし、また、安全圏としての居場所の崩壊を暗示する辺りも良い。メイを訪ねてきた男友達は、壊れたベッドを直そうとして失敗するなどの場違いな存在であり、場違いであるが故に、メイとエディが惰性的な口喧嘩を脱して、決定的な崩壊へと向かう契機ともなるのだ。

ただ、僕は社会的な禁忌などもとよりウンコのようなものとしか考えていない所があるので、メイとエディの秘密が明らかにされても、大して感じるものがなかった。それよりも、二人の諍いや、家庭の崩壊の様を描く方に力を入れてほしかった。なんだか煙に巻かれた感がある。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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