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[コメント] スルース(2007/米)

原作から、洒脱な遣り取りも、屋敷の豪奢さも、焦らすような緻密な頭脳戦も削ぎ落とし、二人の男の相乗的な情動の加速を抽出。ハロルド・ピンターらしい、解体構築的な脚色。(『探偵<スルース>』にも言及⇒)
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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幾何学的で抽象的な屋敷の様子は、まるで現代演劇の舞台のよう。状況の変化に応じて変化する照明もまた演劇的。リメイク元では劇中、随所で、屋敷に置かれた人形の視線が短いショットとして挿入され、男二人の劇に介入していたが、今回は監視カメラの視線しかない(無機質で非人称的な視線という点は共通しているが)。劇としての「面白さ」が削ぎ落とされ抽象化されたこのリメイクでは、互いに自分に無いものを相手に見出し嫉妬する二人の男の関係が、より強調され、ホモセクシャルな関係として描かれる。

その意味で、『探偵<スルース>』の終幕でゲーム終了を告げるように到着したパトカーが、今回は老作家の妻の車である点は意味深。リメイク元では、犯罪や殺人をゲーム化していた二人が遂に現実の事件の当事者となった事を告げる者として警察がやって来ていたが、今回は、二人の男の、親密な関係を結ぼうとする事や、相手に屈辱を与える事で相手を精神的に裸にしようとする、ホモセクシャルでサド・マゾ的なゲームの終了を告げる者として、二人の間に存在する女がやって来るのだ。

この第三ラウンドでの大胆な変更、原作を或る角度から照射すると見えてくる一つの像を示したアレンジ、これが無ければ、単に元ネタを現代風にしただけの二番煎じの域を出なかっただろう。老作家が「この部屋に住んでくれ」と案内した部屋での、男二人が延々と切り返しショットと台詞の応酬を続けるシーンの執拗さ、異様さも面白い。

(評価:★3)

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