コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!(2010/日)

個人的にはこのシリーズ、決して嫌いではなかったが、さすがにこれはない。「死」が一つの主題である本作は、結局『踊る』シリーズの死を感じさせて終了という観。骨太な物語をその中心に据えながらも、それを取り囲む緩々の態勢に沈没。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







故人となったいかりや長介=和久の不在。甥っ子である伸次郎(伊藤淳史)が「和久ノート」を手にウロウロしていることで却って和久の不在が絶えず意識させられること。「死」のカリスマとなった日向真奈美(小泉今日子)の復活。青島(織田裕二)の、癌で余命が僅かであるという噂。新湾岸署に閉じ込められた署員らが、毒ガスによる死へのタイムリミット下に置かれること。日向の目的もまた、自らの殉死によって世界に自殺と他殺を広げようというものであったこと。最初から最後まで「死」につき纏われ、それと格闘する本作。

日向という人物の造形や、「調停役」としての鳥飼(小栗旬)の両義性、派遣社員であるが故の匿名性に紛れ、またネットの匿名性をも活用する犯人グループたちの在りようなど、観客を本気で物語に引き込み得る要素があったにも拘らず、消化不良のまま「仲間」がどうとか「生きてるって素晴らしい」というあっけらかんとした爽やかさに早々に逃れる不燃焼感。ネットの描きようは相変わらずのステレオタイプだが、せめて『誰も守ってくれない』程度の力を入れてもよかっただろう。日向の釈放を待つ白服の集団など、集団心理を描くことでサスペンスを増幅する余地はあったのに。

オープニングの、引越し準備を捜査会議のように進行したがる青島の言動やら、癌疑惑で沈んだり元気になったりする青島の様子やら、その疑惑の真相の明かし方やら、新湾岸署の鉄壁を叩き続ける青島の努力の無意味さや(そんなことで時間を潰すより、やるべきことがあるだろうに)、セキュリティ解除の際の「電源落とせば?」というバカバカしいオチ(こんな簡単な行動を考慮に入れていない者同士の攻防だったのかと思うと、それまでの全てが幼稚な作り事に見えてくる)、室井(柳葉敏郎)に全てを託された青島の、日向への「説得」が殆ど何もしておらず、部下が色々調べてくれましたという親バカ的な自慢の後、日向が勝手に喋るのを聞いているだけなこと、等々、狙ったシーンがことごとく外しているのが虚しい。極めつきは、ワンさん(滝藤賢一)の漫画的なカンフー。『恋人はスナイパー』や『少林少女』と同一線上のカンフー好きの表れ以上のものではないのだろうけど、唐突すぎる上に、カンフー・アクションを見せるわけでもないので余計に戯画的にすぎる。

係長に昇進した青島の、警察官としての在り方の違いや苦労も、引越し騒動でしか描かれていないし、室井はまるで陰影の無い存在としてしか描かれておらず、捜査よりも「政治」をやらざるを得ない葛藤なども伝わらない。今後に期待すべきものが何も無い。その時々の状況に全く関係無く、機械的に「所轄は要らない!」と吠えてばかりいる一倉(小木茂光)も煩いだけ。上層部と現場の乖離という、シリーズで一貫したテーマも申し訳程度に配されているだけだ。

北村総一朗演じる署長の、自らの保身しか視野に無い、政治的汚さとコメディ・リリーフぶりが一体化した人物像は、『踊る』シリーズのテイストを象徴する存在でもあったのだが、その署長の立場が、明るく健康的な真下に替えられてしまったことも、何かこのシリーズの頭部が切断された観がある。北村による、陽気さの中にどこか陰湿さが潜んでいる人物造形に比べて、あまりに薄っぺらい。真下が妻・雪乃の出産を報告する台詞にも、それが水野美紀の演じていた人物であったことさえ、結局は最後まで思い出せなかった。要はその程度の思い入れしかなかったわけだが、何だか、自分の中でも、作品としても、このシリーズは完全に終わってしまったようだ、という感想を抱かざるを得なかった。

これならもう、むしろ日向を旧湾岸署と心中させて、これまでシリーズが積み重ねてきた歴史との決別とオマージュにした方がよかっただろう。青島が逮捕してきた犯人たちの釈放という犯人グループの要求も、過去を振り返るという面が多分にあったわけであるし。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。