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[コメント] 怒りの日(1943/デンマーク)

女性にとって愛とは何か。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 年老いた男との愛のない結婚により日々愛に飢えていた女性が、遠方より帰ってきた義理の息子との禁断の愛に目覚め、それに耽溺していく姿がカール・ドライヤー特有の質素でかつ硬質なタッチで描かれている作品。

 傑作との呼び名も高いこの作品の中でも、マーチンとアンネが小舟や山の中でじゃれあうシークエンスは忘れがたい。このシークエンスでは、マーチンの台詞などの形をとって、このような関係が許されざる関係であり、長続きしないであろうということが常に明示される。このような状況下で、刹那的に物事を考えるアンネとかろうじて理性的な考えを保っているマーチンの葛藤が、高い詩情性を帯びた映像の中で表現されている。

 また、次第に妖しい美しさを帯びてくるリスベト・モービンの演技も忘れてはならない。 例えば、リスベト・モービンが死の宣告をするシーンにおいて影を巧みに用いて演出される緊張感はこちらまで指が震えるほどだ。愛はココまで女性を変えるのか。観る人によってはその女性観を揺るがしかねない衝撃を受けるかもしれない。マーチンが離れていったのを知って、自暴自棄な口調でなされる告白を収めたラストカットの悲劇性もこの衝撃によって高められている。

 他にもティルトとパンを組みあわせたカメラワークや窓枠の影など十字架を思わせる記号が至る所に散りばめられている点も見逃せない。

(評価:★5)

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