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[コメント] 灰とダイヤモンド(1958/ポーランド)

ワイダによる巧みなカッティングにただ唸る。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







素晴らしい映画だ!

前半、マチェクのニヒルでナンパな部分を象徴していたサングラスが、後半、長い地下活動の象徴として、彼を縛る鎖に見えてくる。また序盤に殺した二人の死体もまた彼を縛る。クリスティナに手を引かれ、地下から救い上げられるかにみえた彼は、その縛めのために自ら手を離し、地上から降り注ぐ光を垣間見るに止まる。沈み行く彼に待ち受けるのは死。時代に翻弄される若者の姿が鋭く胸に迫ってきた。

映像の美しさにも言及したい。特に夜明けを迎えてからは全ての映像が美しい。前述のマチェクが見た光を映像的にも表現するように注ぎ込む太陽光が印象的だ。もっとも夜明け前にも心に残る美しいシーンがある。それはマチェクとアンジェイがウォッカに火を灯しながら「良い時代」を振り返るシーン。形式的にも実質的にも「美」が十分に表現されていたように思う。

最終的に、戻る場所もなく、向かう場所もなくなったマチェクはただひたすらにゴミ溜めを走る。 遂には力尽き、灰の中に倒れ、致命傷を負いながらもなお生きたいと体を丸めてもがくマチェクの胸の中に輝いていたのはクリスティナという名のダイヤモンドであったろう。この彼の姿が観客の心に刻み込まれるとしたら、それはこの悲しい輝きがゆえではないか。ワイダによる巧みなカッティングにただ唸るばかりだ。

(評価:★5)

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