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[コメント] ダウト あるカトリック学校で(2008/米)

社会派+修道院、人権弁護士 vs 政治家といった雰囲気を持つミステリで、普通に見ても十分にスリリングでおもしろい。シャープな構成と名演が堪能できる。以下はまったく違った角度からの感想。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ホフマンとストリープのキャラクターを観察すると、この映画は、「物語とは何か」を語ったメタ映画なのではないかと思えてきた。監督が劇作家だからということもあるだろう。

ホフマンの関心事は、己の周囲の関係性にある。人間関係を円滑に保ちながら日常を暮らし、我々の実生活と同じ地平に生きている。この平凡さの中には、わざわざ物語にして人に聞かせるような内容は存在しない。だから彼は事件を起こす。人間関係が事件化したとき、それは他人の興味を引く物語に変化する。

一方、ストリープは、人はかく生きるべきという価値観を持っている。このことはそれだけで他人に伝達する意義がある(と彼女は考えている − 相手が受け入れるか否かに関わらず)。誰かに伝えたい何かが、作家を創作活動に向かわせる。

ストリープは物語作家のように周囲を見ている。まるでこの世界が、自分が生み出した物語であるかのように。彼女の独善主義は作家の絶対性である。小説家が、自分の小説世界に飛び込んで、「あなたというキャラを生み出したのは私だけど、それはそれとして、あなたはいったい何をどうして欲しいわけ?」と聞いて回っているようだ。

ヴィオラ・デイヴィスの訴えに対して、「努力をしてみることはできるわ」と応えるストリープの距離感。校長室の電球が切れたことを他人の欺瞞のせいだといわんばかりの態度。開いた窓から吹き込む雨。

ストリープは、自分が生み出した世界に徐々に侵食されていく。やがて彼女は一人だけ取り残されたことに突如として気づく。それは作家の孤独である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus ぽんしゅう[*]

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