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[コメント] お国と五平(1952/日)

時代劇となるとなぜか仇討ちを語りだす成瀬(『三十三間堂通し矢物語』は仇討ちの物語ではありませんが、市川扇升の動機は多分に仇討ち的でした)。いささか多用の気味さえある寄りのカメラワークが登場人物の感情を力強く画面に刻み込む。驚きの創出と繊細さの高次の両立という成瀬の真骨頂を堪能できる傑作。
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屋外撮影は溜息が出るほどに美しく、山村聰の登場カットであるとか、いくつかのカットに至っては『歌行燈』級の強靭さを獲得している。それにしてもたまげるのはその山村の発明的な造型だ。お上手に尺八を奏でるへっぽこ侍/ストーカー虚無僧であり、ついに堂々と木暮実千代らの前に姿を見せたと思いきや「殺されるのはいやだ〜」と喚いて逃げ回る。なんという厭らしさ! だが私にはこの山村を憎むことができない。むしろ同情を覚える。山村と同じように木暮と大谷友右衛門に対しては「なんだかんだ云ってお前らいい感じになってるやんけ」と思ってしまう。しかし、だからと云って、果たして「映画」がこのような結末を持つことが許されるのだろうか。ほとんど正気を失ったと云ってもよい大谷と途方に暮れる木暮。悲劇を予告するあの尺八の音色が流れ、映画は怪談の領域に突入したことを示唆して終わる。壮絶!

木暮の母三好栄子のまさかの巡礼(二役)での再登場や場違いな演技を見せる医者藤原釜足によって息苦しくなりがちな映画に多面性を与える手際も鮮やかで、怖ろしい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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