子供の頃に読んだ岩波文庫の「ノートルダム・ド・パリ」は、偏見と差別に満ち、あまりにたくさんの人が死ぬ陰惨な滅びの話だった。そういえば同じ原作者による「レ・ミゼラブル」も、いたずらに悲惨なエピソードの多い話だったよな。

長じてこのディズニーアニメを見たときに、原作改変がひどすぎると思ったが、よく考えるとこっちの方が物語としてまっとうなのかもしれないと思う。手塚治虫がよく使う、「大事な場面で人を殺して感動を誘う手法」を宮崎駿が指摘しているのを見て以来、その手の演出が鼻につきだしたからだ。

物語の導入となる狂言回しのクロパンのスリリングな歌、そして鐘つき男カジモドの賛美的アリアは秀逸。これほどの歌は凡庸なミュージカルでは聞けないと思う。

結局エスメラルダは男前の兵士を選んじゃって、その点反感を感じる人もいるみたいだけど、だからって、身を挺して自分を救ってくれたからって、わざわざ誰もがびっくりするほどのブ男を選ぶ必然性もないだろうと思うので、この結末はこの結末で納得。彼女には彼女の現実があり、物語を見ている人の倫理観に沿う義務はないのだ。

異形の怪人を主役に選んだディズニースタッフの決断には脱帽。