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[コメント] ハート・ロッカー(2008/米)

現実のドキュメント性をフィクションで読み直すことの沈着な演出と、西部劇を連想させるヒロイックなロマンティシズムはGOODなアメリカンムービー
junojuna

 アメリカという映画立国がきわめてアメリカ的なムードを湛えた作品にオスカーを授与した。その意味ではアメリカの戦争に対する意味が読み取れる逆説的に晦渋こもる作品ではあるのだが、それを劇映画と割り切って見せるキャスリーン・ビグローの手腕を評価したい。アカデミー賞受賞もむべなるかなの完成度である。主演を務めるジェレミー・レナーのふてぶてしい顔つきは、アイルランド系荒くれ男のタフガイ精神を体現する男らしさがプンプンして実にクールである。ロバート・ミッチャム直系のハードパンチャーといえよう。ここに、アメリカ映画が理想としてきた男のロマンを描くヒロイックなロマンティシズムが立ち上り、ジェレミーとアンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラーティらのチームワークによる旅団の哀愁ともいうべき風情が、往年の西部劇を連想させてアメリカ映画的な感動を打ち立てて巧みである。ドキュメンタリー作品でない限り、戦争を主題にした劇映画なら、いかにドラマとしての強度を持ちえるかということが本懐のはずである。その点、本作は安易な反戦映画として収まることはなく、人類が戦争の現場に駆り立てられる心の闇を主題に置くことで、確かな人間のドラマとして成立していることは、ビグローの女ながらケツの穴のデカいクールさにこんにちはなのだ。勃起感が旺盛なこの映画を、女が撮ってしまったということは殊更に偉大である。何故、男にこうした映画が撮れなかったか。ビグローは凄い。ともすると、アメリカ映画に我々が期待するのは肉体的なスリルに溢れた勃起感なのではないか。このきわめてアメリカ的な映画を、決してマチズモ映画をテーマとしていない女流監督が撮ってしまったことは、アメリカ映画界の末期的症状なのかもしれない。

(評価:★4)

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