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[コメント] 荒野のストレンジャー(1972/米)

セルフイメージ戦略の始原としては興味深いSO-SOウエスタン
junojuna

 『恐怖のメロディ』でのセルフプロデュースの坐りの悪さを反省してか、得意の西部劇でのヒーローぶりをアピールしてみせたこれまた野心作の匂いが充満した監督2作目である。過去に執着する男の無骨な存在感をその肉体的顕示でヒロイックに描くという主題は、後に変奏されつづけるイーストウッド作品の特徴的な世界観である。そして本作では小人症という肉体的な特徴を持つ男が出てくるが、その肉体が一般的ではないという意味でのマイノリティに寄せるシンパシーというモチーフもここでは印象的に描かれている。同一主題を変奏しながら繰り返すというミニマルなフィルモグラフィはイーストウッドの作家性を示す意味で特徴的であるが、さらにそこに自らが被写体として立つということの巧みな計算がイーストウッドの作為を価値あるものとしている。映画史的にイーストウッドが評価される点は、2人の師セルジオ・レオーネドン・シーゲルから与えられた被写体クリント・イーストウッドという財産を後生大事にうまく時流に身を任せながらプログラミングするセルフイメージのブランド管理力である。そのイメージ戦略こそが凡百の俳優=作家を超えて驚異的であるのだ。これは監督業に専念する場合の作品においても企図するところは同じと思われる。たとえるなら同じメーカーのレーベル違いというものか。本作は『グラン・トリノ』への軌跡を辿る歩みの始原である。

(評価:★3)

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