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[コメント] スカイ・クロラ(2008/日)

「閉ざされた空」との決別。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







遥かに高く透明な、しかし何もかも不確かで閉ざされた空で、確かなものを求めて抗い散った想いは、それでも残された者の中に生き続ける。虚ろな戦争ゲームを見つめることでしか生を実感できない大人たちの実在感は皆無。子供たちの交歓、罵声、そして決意は自我の目覚めに似て、そのたどたどしいもがきは、世界に向き合おうとする心のあらわれ。空を支配し、閉ざされた円、虚無・虚構からの逸脱を許さない「ティーチャー」こそは実存の最大の敵である。

押井守は世界を暗黙の了解と虚構が支配していることを事実であると認めるが、その在り様については一貫して否定し、嫌う立場の人物だと思う。基本的にその世界観はほぼすべての作品群で一致している。一般的なイメージよりも、非常に世界に対して真摯な人物だと思っている。一方で自らの設定した世界に耽溺しすぎてテーマを見失い誤解されることも多い。しかし本作は淡々として寓意に満ちた筆致に、かえってこれまでになく力強く虚無への嫌悪がにじんでいる。どのような心境の変化があったのかわからないが、それでもティーチャーに抗いカンナミが敗北するラストを配置することでメッセージをかえって強化したアプローチは、押井守の作家的理性の発現と更なる高みを約束した。。「ティーチャー」は実体を持たない虚構だから、当然ながら顔も正体も明かされない。勝利による完結ではなく、敗れてこそ想いの「継続」を提示した手法。素晴らしい。押井さん、素晴らしいじゃないか。

閉じられた円、虚構の「教え(コトワリ)」を突破する力の種は蒔かれた。空(セカイ)は閉じられて這い回る場所ではない。空は開かれ、飛翔するために高く、透明で、どこまでも蒼いのだ。

・・・何ていくら考えてみてもkionaさんとペペロンチーノさんのレビューが完璧で恐れ入ります。なお、表題はベルトリッチの映画とは無関係です。

(煽尼采さんのコメントを読んでの追記) 終盤、カンナミの台詞「ティーチャーを撃墜する」という字幕表記の箇所は、私も違和感があったため、もう一度観てみたところ、確かに"I'll kill my father."と発音されていました。これは見方がまた変わります。ルーク・スカイウォーカーの父がダース・ベイダーだった!みたいな笑撃の一言ではもちろんなく、きちんと父殺しの物語としての意味を深く捉える必要がありますね。

(評価:★5)

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