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[コメント] トラ トラ トラ!(1970/日=米)

日本軍は終始ハイな田村高廣が奇怪な自慰映画に過ぎないが、米軍は緩慢対応に係る自虐連発で面白い。奇襲の零戦みて「安全規則違反だ」ほか。このフライシャー・パートだけ編集したら『キャッチ22』みたいな傑作ギャグ映画になるのではないだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







米軍は序盤からドタバタしている。「日本はこれまでいつも宣戦布告の前に戦闘行為を始めている。ハワイ奇襲もありえる」というレポートが米軍で読まれている(日露戦争も奇襲だから)。しかし見張りには飛行機が足りず、レーダーが届くが設置敵地である山頂は国立公園で野性動物保護協会も批判すると云われる。それならそんな処に基地を作らなければいいのにと思うが。移動式レーダーが設置できたが電話は1マイル下のガススタからかけろとの指示。これらはギャグなのか事実なのか。開戦日に電話は開通しているが情報は出鱈目にあつかわれている。当日は日曜でみんな休みとうギャグがフル活用されている。

パールハーバーは湾口が狭く軍港に不適当とか、空襲に備えて分散保管されていた飛行機を日系人(13万人)の破壊活動を怖れて纏めさせたとか、大西洋に護衛艦を取られたとか、いろんな悪条件が語られる。当日の潜水艦攻撃の情報も真面目に受け取られなかった。日本の無線傍受の情報が大統領に届かないとボヤカレテいる。11月29日までに小童米交渉終了などの情報を傍受して30日攻撃ではとブラットン陸軍大佐(陸軍情報部)E・G・マーシャルは上伸し、大統領に伝わる(一週間ズレたのだがそこら当たりは詳述されない)。

ハルゼー海軍中将ジェームズ・ホイットモアに電文が届く。「戦争を避け得ない場合、アメリカは日本からの第一撃を望む、ただしこの措置は防衛措置を制限するものではない」陸軍参謀総長マーシャル。「どういう意味だ」「曖昧で矛盾していますな」。キンメル海軍大将マーティン・バルサムに尋ねる。「常識でやれ」との回答。ヘンリー・スチムソン陸軍長官ジョゼフ・コットンは夜に妻と車で向かう大統領は不在で鞄を置いてきている。最後は、大統領は天皇に親書を出したから最終回答がくれば見せろと指示されている。

この親書は8日に駐日大使の処に届き、遅すぎたと東条内田が云う。当日、スターク海軍大将(海軍作戦部長)エドワード・アンドリュースは開戦かもという情報をハワイに伝えようとして、いや大統領が先と止めてしまう。田村高廣ほかガンガンと空母から零戦が発った次の件で、マーシャル陸軍大将キース・アンデスは攻撃を確認。だから大統領が奇襲を事前に掴んでいたという産経歴史戦話は否定されているのだろう。

日本側代表は山本五十六山村聰、連合艦隊指揮官着任式で「海ゆかば」が演奏されているのが不思議。戦死者追悼の歌ではないのだろうか。田村高廣たちは、山本は陸軍のやりかたに盾突いて命を狙われて軍艦に逃げてきたと噂して大笑いし、引継式でよく殺されなかったなと吉田新海軍大臣に云われている。海軍映画で陸軍をケナすのは定跡みたいなものだが、この切り口はそれ以上の展開はない。

近衛文麿首相千田是也が似ている。荻外荘で五十六と会談。「ぜひやれと云われれば一年一年半なら暴れてご覧に入れるが二年三年は保障できません」という有名なフレーズがここで吐かれている。

政府の回答引き延ばしに疲弊する野村吉三郎駐米大使島田正吾の件もある。米側は後任の来栖三郎駐米特派大使十朱久雄を「独大使時代に三国同盟に署名した男」と皮肉っている。この二人の有名なノロい翻訳作業(関係者以外の翻訳が禁じられた)もギャグのネタにされている。奇襲後にハルに最後通牒を届けて(55分遅れとある)破廉恥を云われて半泣きで帰る野村大使は気の毒。真面な官僚はこのように切り捨てられるのだった。日本軍が撤収してから米軍はこれを受け取っている。これでは眠れる巨人を起こし奮い立たせたも同じと五十六が嘆くラスト。

五十六の山村-南雲の東野英治郎-航空兵に田村高廣井川比佐志室田日出男というラインは、反戦映画にしばしば登場するような面々で奇怪な気がする。源田實海軍中佐(第一航空艦隊参謀)三橋達也は自由党の参議院議員になり、本作製作発表の記者会見にも立ち会っている。

「トラトラトラ」はハワイ上空到着時、攻撃前に打電されている。日系人がパイナップル積んでいる風景がワンカット挿入され、日系の少年が軍部に情報を持ってくるらしき描写がある。日本のスパイ吉川猛夫マコ岩松が、情報収集のため暗躍していた。という件は残念ながらカットされた由。この件は面白そうなのに残念。冒頭から12月7日早朝と英語で字幕。以降も12月8日は英語字幕では7日と翻訳される。

深作の評「こちらの日本の騙し討ちだけの問題ですから、話がつまらないですよね。面白くなるわけがない。脚本に全然政治が設定されてない。海軍の山本五十六をめぐる平和主義的神話を黒澤さんは信じていたんですかね。それは神話でも何でもなくて、結局は無責任思想の表れで、みんなそうだったと思います」などと話している(「映画監督 深作欣二」)。妥当な評価だと思う。あんたの作品だろとも思うが。

(評価:★3)

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