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[コメント] 暴力金脈(1975/日)

松方絵沢梅宮小沢邦衛浜田と役者の揃った前半のコメディが素晴らしい。後半はシリアスになり空中分解してしまうが、アンニュイな池玲子さんが拝めるので許す。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







軍艦マーチで目覚める松方、ご陽気な劇伴、変なネクタイ、山城新伍追い越し朝から行列、総務課へ。名刺の肩書は「総会屋」。「貰い屋」というらしい。小沢栄太郎が彼は俺の処で勉強中とか云うと金一封が貰える不思議。「貰い続けて30年や」と昼から酒屋のカウンターで笑う小沢。ふたりで社屋に入って「大東建設バンザイ、藤本社長バンザイ」と拡声器で叫びまくると「はよカネ包んで返せ」と社長から指示が飛ぶ。

平和産業総会。小沢指揮下の特攻服の面々が田中邦衛の入場を阻止、邦衛指揮下のグラサン連中とロビーで東映マターの乱闘が繰り広げられるなか、館内放送が粛々と総会開会を告げるのがいいギャグ。小沢殴られて引退、松方へ最後の教え。喉を鍛えろ、会社法・商法勉強、総会進行方法マスター、八百長の度胸。

安保の記録映像に続けて右翼街宣車が銀行前で軍艦マーチ。グラサンに迷彩服で株券の名義分割を交渉する松方。「私はそこらの分割屋とは違うよ」分割屋というのがいるらしい。「ざっと百万ほどの出費に」「包み金でひっこむ相手かどうか」分割されると会社は困るらしい。

仲を探られて強請られると浜田寅彦の頭取にこぼされて総会屋の田中邦衛は激怒する。「組合に取り囲まれたとき体躯を張ってストを止めて以来2年間、寝食忘れて当行の世話をしてきた積りや。たかだか7、8千万円の公債融資や賛助金でそないなこと云われたんでは、幹事総会屋として立つ瀬があらへん。株主協力会の看板外させて貰いますわ」。何というブラックジョークだろう。こういうのを許しちゃう事なかれ主義の会社風土ってのがあった訳だ。

松方は警察から浜田に電話「出入りの特殊株主に不正融資している情報があるんやが」。警察の紹介だと訪問して、邦衛に月ぎめ賛助金30万と盆暮れのボーナス200万ほか払ってますね、から始めて揚足取りまくる(後半で松方は丹波哲郎との取引で幹事譲られる条件に同じ金額が云われている)。松方は商法にやたら詳しい。最後は邦衛に1億円強請られた浜田が松方に泣きつき「機密費として落とせる上限は幾らです」「2、3千万なら」「3千万で話つけましょ」。恐ろしい会話だ。ここまでが前半。

上京した松方、総会で活躍。社長の息子がマンション住まい、なんてネタで吊し上げる。「おい三等社長、お前は俺たち株主が雇っている番頭なんだよ、番頭が勝手に主人のカネ使ったら昔なら磔だ」。痛快だが裏口で捕まってボコボコにされる。総会屋が頑張らんと左翼革命が起きると大滝秀治嵯峨善兵に励まされたりしている。丹波哲郎は自分の企業活動十周年パーティで壇上で演歌唄っている。

後半は松方対梅宮、松方対丹波になりシリアスになる。この変節点へのルーズな池玲子投入が実にいい。彼女は若山富三郎の社長から松方に乗り替え、最後に若山の娘だと衝撃告白、マンドリンすすり泣くなか自動車で自死という、やたら駆け足だがそれなりにすごい件であった。

しかし、ラストの松方の総会緊急動議から序盤のブンチャカ音楽に戻って「茶番だ」と終わる収束は駆け足が過ぎる。インタビュー集「昭和の劇」で笠原は「大企業へのかなりのアンチテーゼ」になるラストを書いたが中島が「敵前回頭しちゃってね、つまらないものになっちゃった」「結局、四大銀行、これが一番の根源で、それを描こうとしたんですけどね」「銀行が総会屋を飼っている。ほとんど銀行の私兵です。ただ、映画会社も銀行から金を借りていますからね(笑)」と語っている。

という訳で阿呆のようなラストだが、前半は破格に面白かった。前半の絵沢萌子が相変わらず愉しい。猫飼いと称する河川敷のバラックに集団で住まい、猫捕まえて袋に入れて叩き殺して捌いて皮は三味線、肉はニャンバーグと云われる。この件は全体と特に関係がないのだが、エゲツないので印象に残る。後半はストップモーションも『仁義なき闘い』のテーマのアタマも使われるが、シリアスだからパロディというより模倣に近いように思われる。長髪の川谷拓三が狂っていて素晴らしく、ひとりだけ『仁義』を続けている具合だ。再見。

(評価:★4)

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