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[コメント] 父ありき(1942/日)

面妖な情報局賞受賞作品
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







お茶漬けの味』を映画法の検閲で却下された小津が、検閲を通るよう完成していた脚本を直しまくった妥協作であり、時局下でも自らのスタイルを変えない姿勢が当時高く評価されたのは有名な話だが、事情抜きに鑑賞すれば、面妖ないかがわしい作品という印象は拭いがたい。これほどぎこちない、ユーモアの欠如した小津作品もない訳で、『風の中の牝鶏』や『宗方姉妹』のグロテスクな世界が派生した抑圧的な原型ではないだろうか。

教員時代の笠智衆は明らかに軍隊の上官に模されており、即ち部下を死なせるような上官は潔く辞めてしまえということで、中国戦線帰りの小津の皮肉だとすれば随分愉快だがどうもそうではないらしく、笠が息子の佐野周二に「教師」を続けることを訳の判らない理屈で説く辺り、なかなかにウンザリさせられるものがある。

そのようにして「いまどき安閑としておっては申し訳ないぞ」という笠の唐突な科白を軸に、親子の愛情が理想的な上官と部下の関係のように描写されるばかり。笠の演技が硬いのは時局柄軍隊の上官のように演じているからであり、下手糞だからという本人の謙譲を真に受ける必要はない(下手糞な訳がない)。放っておいても背中から醸し出されるユーモアを、懸命に封鎖しながら演じているように見える。

唯一、小津らしいユーモアのみられるのは、笠に挨拶をせず水戸光子に駄賃をねだる坂本武の息子の造形であるが、この子の無表情が実に不気味であり、笠=佐野親子との対照でアイロニカルな意味づけをされている。子供をこれほど冷たく描写した小津作品は他に思いつかない。

笠は病気で亡くなっただけなのに、「父さんは立派な最期だった」とまるで軍人の最期のように語る坂本は滑稽かつ意味不明で、小津は自嘲的な冗談としてこの科白をいれたようにさえ思われる。笠に末期に頼まれただけで佐野に連れ添ってしまう水戸も滑稽で、旧民法下の理想的な婦人像の極地であろう。

(評価:★2)

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