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[コメント] 雑兵物語(1963/日)

藤村志保のコスプレ観に行っただけなんだけど、感銘を受けた。傭兵と市民兵の差異について、「働き方改革」について、示唆に富み刺戟的。温い喜劇でもって庶民の情緒に寄り添いながらいろいろ語ってしまうのがレベル高い。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は傭兵と市民兵との差異にかかる考察である。柳家金語楼の前で(この和尚も仲介料で買われたというオチがつくが)村人たちは共同体の一員たる市民兵としての自覚など皆無であると表明する。十五人が参加するのはあくまで金目当てであり、賃料が高ければ敵軍に寝返るのも何の抵抗もなく許される。これを卑しいことと非難するのが国民皆兵のイデオロギーであるが、本作はこのイデオロギーが絶対的に欠落している。

金さえ貰えればいいのさと戦闘を怠ける勝新太郎を観たら、近年の経団連のお偉方は眼を剥くだろう。これが高度プロフェッショナル云々の働き方改革、時給制の廃止と出来高払いの発想の根底にあるだろう。雇用側と非雇用側と、それぞれどちらが住みやすいか、ここで利害は先鋭的に対立する。国家共産主義が終わっても階級対立は終わっていない。本作はこの一面を画面に見事に定着させている。

するとどうなるか。結果は敵兵たちの命を救うことになるのだ。しかも敵兵に加わった太平洋子らの救出という、情緒的に実に必然的に。こんな理想をあっけらかんと達成してしまう物語は稀少、数多ある反戦映画でもトップクラスの成果だろう。これはイデオロギーの欠如した、足軽の傭兵だから達成できた。

敵を憎む、という動機のない処で、戦闘はありえないと鮮やかに示している。本作でも一番美しいのは太平の戦場での出産の件で、フラーの『最前線物語』に先行している。事情を聞いて手を振り撤退する敵兵たちの画は、喜劇ならではの理想が刻印されてある。本作は小国英雄の傑作だ。原作も探そう。

映画はとことん温い喜劇。ほとんど空腹と性欲と、後半の知らずに運ぶ爆弾という古典的なネタで展開される。宮川一夫は夕暮れの美しい風景を捉える一方で、顔グニャの画など撮ったんだなあと思うと可笑しい。客席にいちばんウケていたのは茶店に登場する平和ラッパで、滔々と爆弾の説明をしていて、漫才のときのアホ丸出しのボケとはえらく印象が違うのが面白い。

(評価:★5)

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