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[コメント] 哥(1972/日)

失われゆく自然を護るのは封建社会の大地主という屁理屈でもって実相寺の右旋回は続く。だいたい哥がなんでヴィヴァルディなのだろう。掃除マニア篠田三郎の造形はメルヴィル「バートルビー」の詰まらないパクリ。見処は好色に走る桜井浩子
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







園部の民家の法律事務所で掃除マニア篠田三郎は朝から掃除。盆と正月以外は休まず「聞こえる。山の音や」とか呟きながら時計通りの日課。はったい粉大好きで肉喰わず夜は書道。夜中は懐中電灯もって警備員。口癖は森山家守るため。死と云う名の絶対を求めて墓の墓碑銘写し取っていたら、托鉢坊主内田良平が寄ってきて墓のなかなど何もない、100年もしたら魂は消えてしまう、長くて1400年くらい、お釈迦さまは死んだ途端に霊魂も消滅したとか適当なことを喋りまくる。無なら森山家守っても仕方ないだろう。篠田は仏教が嫌いなったに違いないが、こういう細かい処は追及しないスタンスの作劇。

法律事務所の家主、弁護士岸田森は本作では、篠田との対照のためか「久し振りの大事件、ガンバラナクっちゃ」とか云ってはね回るやたら剽軽な造形。欲求不満の妻八並映子は陰気な性分。ふたりで丹波篠山の馬鹿でかい山林所有する実家森山家へ。岸田が篠田はお手伝いの荒木雅子と誰の子かと尋ねると縁側の両親嵐寛寿郎毛利菊枝は沈黙してジャンジャン劇伴が鳴る。盆に篠田は訪問し、荒木に一生懸命働いてると勝手口で報告、母親想いと判明する。彼は当然アラカンの子。アラカンは財産の三分の一は篠田に行くと後に語っているが、篠田は財産分割(戦後民法)に反対であった。

事務所で同居人の司法試験受からない田村亮は朝からお手伝いの桜井浩子とセックス。スタイリッシュな映像のなか、桜井が卓袱台拭くヒップアップのベストショットがある。飛び込んできた共同弁護の仕事、篠田の「五時以降は働きとうないんです」事件が発生し、岸田と田村は八並も桜井も引っ張り込んで徹夜で書類リコピーしているなか、何も気にせず篠田は夜の警備員といういいギャグがある。四人が呆れて窓から覗いているのに篠田は無しか見ていないらしく気づかずに通り過ぎるのだった。篠田の契約外の勤務拒否は戦後の労働三権への過剰反応とも思われ、前段の戦後民法否定とえらく矛盾するのだが未整理。要は法律事務所が嫌いなのだろう。

裁判に勝って田村と桜井がセックスしている夜、八並は篠田の部屋に夜這い。この関係がすぐさま広まる狭い田舎町。岸田はインポらしく世間体を慮って八並をバイブで弄ぶ。そこに弟の東野孝彦が二年振りに戻り、両親死んだら財産の山にゴルフ場やドリームランド作ろうと悪巧み。岸田と八並はこの園部の家は東野に譲って京都に去り、篠田VS東野という判りやすい図式が浮上する。

田村・桜井は200万円手切れに強請って代書屋、東野に使われ、桜井は東野に強姦されるサービスショット。篠田は新しいご主人も森山家の人ですからと家に留まる「バートルビー」のパクリ。東野が町で拾ったカップルでポルノ撮影していると篠田が警備員。東野に押入れの習字ひっくり返され、出て行けと云われて断り、家にいたかったら飯食うなといわれて従う断食で苦悶する辺り人間的で、「バートルビー」の過激さはない。東野は取り消すと云うが一旦口にされたことは時間を遡らないと取り消せないとか屁理屈こねて断食続行。森守るならそんな意固地になっている場合ではなかろうに。篠田は八並は淫売婦と口走り、東野が女はみんな淫売と返すと篠田は光明を見たりするのも意味不明で、掃除マニアの春のめざめなのだろうか、このエロの裏主題は主題と噛み合わない。

こうなったら財産分割と岸田と東野は脈絡なく悪巧みを続行し、それだけはやめて下さいと篠田は頼み、森山家の山林は最後の砦、我々の魂の拠り所である形などと家父長制の戯言のような自説を力説。ふたりはせせら笑って日本はもう滅んだんだとこれもよく判らない極論を吐き、山林を案内させる。三分割しても憶とか十億とか語り合って悦んでいるが、丹波篠山の山林が当時はそんな値で売れたのだろうか。今なら二束三文だし丹波篠山にレジャーランドつくるのに乗って来る業者すらいないが。篠田は托鉢内田の幻影を追いかけてヴィヴァルディ「四季」劇伴に匍匐前進、母に手を伸ばすも哀れ石段転落死。

(評価:★2)

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