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[コメント] 日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里(1957/日)

クロサワの少年倶楽部系「痛快娯楽作」の底の浅さが逆コースと呼応した悲惨な駄作。併映は『赤胴鈴之助』。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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菅原謙二は三度か四度、中国人から情報を聞き出して謝礼を渡すのだが、これをまるで約束事のように地面へ投げ捨てるのだ。手渡すのが禁じられているかのように。中国人は卑屈な笑みを浮かべてこれを拾う。こういう描写を観て私は森一生が嫌いになったし、こんな役やらされて菅原は可哀そうだと思った。

中国人はソ連寄りだから注意せねばならない、という科白が劇中にある。ここには八紘一宇の「理想」すらなくて、中国大陸は敵陣であるとの了解が明快である。ソ連兵と間違えて中国人たちの音曲で見送られて菅原らスパイたちは失笑しているが、そこには間抜けな中国人めという蔑視があるばかりで、中国人の協力を取り付けようという意思など何も感じられない。日本人は単なる嫌われ者なのだ。惨めなことである。

比べて馬賊は対日協力者もいたりする辺り興味深いが、結局のところ何も穿っていない。見捨てた兵の馬が現れて「沼田の霊が」と救われる件は最悪。こんな神風頼りの子供だましでしか日露戦争には勝利できなかったのか。こんな見通しのない戦争をされては国民が迷惑である。

無論これは戦前に脱稿されたホンであり、戦後につくる大映が愚かなんだが、OKを出した脚本家2名も当然に同罪だろう。『明治天皇と日露大戦争』も同年制作。ひっくるめての逆コース。本作は大映初のシネラマ、鉄嶺駅潜入などよく撮れているのが虚しい。

(評価:★1)

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