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[コメント] CURE/キュア(1997/日)

当時の脳科学ブームからネタ拾ってきたのだろうが、リアルな症例より当然印象薄くなる。何十年にもわたってテレビでじゃんじゃん取り上げられているのだから、オカルトが「権力の弾圧受けた」なんてポーズも芳しくないだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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90年代は脳科学の解説書がたくさん出版された時期で、私も悦んで読んだものだったが、このホンの作者もたぶんそうなんだろう。右脳と左脳を切断すると、論理的な左脳は情動的な右脳の犯した誤りをヘンテコな論理駆使して後付けの説明を始める。その症例は実に興味深いものだった。本作の事例はその既視感に溢れている。

別々の人が同じ殺し方する。喉に×印に斬る。戸田昌宏は回顧して「あのときはああするのが当然と思ったんです」と告白する。巡査のでんでんが交番で穏やかな昼下がりに同僚を後ろから突然撃って、理由を説明してはたと我に返り「確かに変ですね」。うじきつよしは熱出して幻覚見て、萩原は伝道師だと口走り、起きると壁に×の字が描いてあるが「思い出せないんだよ」と否認する。

こんな箇所に影響が見えるのだが、脳神経学の症例に比べると娯楽一辺倒で深みに欠けた。「あんな女房を一生面倒みなきゃならないんだ」と萩原聖人役所広司の弱み、妻のことを持ち出して混乱させるのは『惑星ソラリス』に似すぎている。

催眠術のフランツ・アントン・メスメル系列のフィルムが出てきて、映像は明治時代の和服のヒステリー患者の『狂った一頁』式になる。手口が同じ。オカルティズムはいつも権力の弾圧を受ける。催眠術も密かな儀式として行われたとうじきが語る。こういう、極右・極左政治の暗喩の語り口は、よくある手法で詰まらないし、そもそも事実でない。オカルトなんて、何十年にもわたってテレビでじゃんじゃん取り上げられているではないか。

しかし、訳判らないが本人のなかで論理が通っている萩原聖人の饒舌は「悪霊」のピョートルが思い出されるが、これは類が違って面白かった。何度も同じ質問繰り返し、「あんたの話が聞きたい」と最後に正面から見つめる手口。「あんたの話」と二人称の関係に仕組むのが論理的に面白い。しかし、終点がオカルトでは膨らみに欠けた。

撮影美術はときどき面白く、戸田昌宏が妻を殺害後、二階の窓から飛び出して墜落(人形ではなく動いているからCGか)する件の、原っぱに建った家屋の全体を見せる突然の引きのキャメラがいい。コップの水突然かけられる洞口依子も面白い。役所が喫茶店のウェイトレスに殺られるだろうと予感させる収束もいい。この三つが印象に残った。

(評価:★3)

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