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[コメント] 殺したのは誰だ(1957/日)

』に続く新藤の菅井一郎保険金ものでさらに煮詰まっており、殺したのは社会なんだが死の本能でもあるという含意がもの凄い。浜村純殿山泰司の怪演極まる中平日活ノアール。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まだ国産車が廉価品だった時代。菅井は外国車のセールスマン。一緒に満州ゴロして戦後は赤錆だらけのクルマ売ったという社長の会社組織に属しているが、まだシステム化されていないようで売り手市場らしく、菅井は個人的なコネクションで仲介業をこなしており、75万の買い手がいるが西村晃に70万円で横取りされる。仁義はないのかと捻じ込むが蝶ネクタイの西村は商売だからねとあざ笑い、妾の山根寿子は仁義なんてヤクザじゃあるまいしとヤジる。クルマのセールスマンは1万人と云われる。

殿山泰司は外車相手の磨き屋をやっている。社屋はなく国道高架横の路上、学生バイトらしい社員が通りがかりのアメ車の窓に小走りに纏わりついて、磨かせて下さいよ、200円、100円でもいいですよと営業、この様を自在に追いかける長回しのキャメラが素晴らしい。これらアメリカ資本のコバンザメ商法に時代の悲哀がある。

山根寿子の居酒屋は借金で崩壊寸前で、纏わりつく蠅取り紙、保健所からの衛生「秀」のパネルと天井から垂れる蜘蛛の交錯がすごい。いるだけで死にたくなるような場所だ。ヒスな山根の造形恐ろしく、西村に栓抜き投げつけるアクションも恐ろしい。唯一の常連、鬚だらけの浜村純の造形が亡霊のようで素晴らしい。戦時中は自動車班らしくダンロップのサブと呼ばれたとある。引越し前日、椅子が机の上に逆さに積み上げられてもまだ居る。家に帰らずここに居座る菅井は、まるでさらに借金を抱えに来た具合だ。家では娘の渡辺美佐子がオトコ連れ込んで腋毛見せ、息子の小林旭は居場所もない。菅井にボクが儲けてあげると長い長いビリヤード(三つ球)の試合が二度ありハメられてボロ負け。旭のキュー捌きは上手で、点数係の泣き黒子の竹内洋子がいい。

西村は菅井にクルマぶつけて保険金取ろうと誘いをかける。10万円。山根は「バーンとぶつけるんだ、アハハ」と狂ったように笑い、菅井はビールのグラスを握りつぶし「やるぞ」、山根は正気に戻って取りなすが後ろの席から浜村が「ぶっつけやがれ」と煽る。終末感が溢れている。深夜の千駄ヶ谷、国鉄高架傍の交差点、狙いは警官が旗振る交差点のロータリーの構造物。菅井は一度、二度と寸前にハンドル切ってしまい屋台に駆け込むと、そこに運命のように殿山がいて酒瓶でラッパ呑みしながら「俺もやらせろ、こいつは俺の専門」とクルマに乗り、すごいクレーンの撮影で前面転覆大破。眼剥いて死んでいる殿山の死に向かって一直線の激しさはタナトスとしか云いようがない。線香あげに行った長屋は上半身裸の女がうろついている。

菅井は美佐子のクラブで酔って唄って暴れるいいパフォーマンス。清水将夫に大陸のコネで250万円のクルマを射止め、これからうまくいくんだと狂喜。ここでタイトルのアメ車のカーラジオ、マンドリンが奏でる伊福部節がクライマックスで反復され、菅井と美佐子のしんみりした対話がある。ビリヤードで裸になった旭には西村から再び事故車の保険金詐欺の提案。大雨のなか同じ交差点の潰れたロータリーに旭は突っ込むが、菅井が静止して轢かれる。このときのクルマのスピンのカット割りももの凄い。模型が挟まれるが気にならない。包帯だらけの旭、山根と美佐子が、菅井が帰りたいと語った紀州の海を車窓から眺めて映画は終わる。

菅井は後年、別の中平作品で演出方針の違いでリタイアしており、この件は菅井の著作に残されているらしいが、本作では演出の齟齬は認められない。銀座の並木座が向かいの8ミリキャメラ販売しているカメラ屋から眺められる。菅井を殺したのは西村晃、貧乏、アメ車の外国資本だが、それらから逃れようとする死の欲望でもあるだろうという感想が残った。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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