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[コメント] 傷だらけの山河(1964/日)

ヤマサツ初の社会派娯楽大作で鉄道延伸にかかるブラックユーモア集。堤康次郎は戦後は国会議員をしているのだから、という処で巧みにフィクションが保たれているが無論同じことだ。開通式の軍艦マーチが最高。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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東京の人口1千万人、毎年28万人増と語られる。野原のなかに駅建てたら数年で町ができる。田んぼ道を黒塗りの車で走り回り東野英治郎とニアミスになり、航空写真撮って地図つくりからはじめる東京一極集中のぼろ儲け。「国土の均衡ある発展」は当時まだ国是だったはずだがまるで顧みられない。山村聰は屁理屈を並べる才覚はありどこまで本気か判らない。百貨店法を笠に着て契約更新はしないペテン。第二組合組織化の指示もしているのが見逃せない細部。

ブラックな嗤いに満ちている。ビル建設反対の要望をして喧嘩別れなのに金一封は受け取る加藤嘉。余りにも怠け者の川崎敬三に向けて若尾文子が云い放つ「怠け者」。歯医者にも行けずコートも買えずと嘆く若尾(川崎と同棲している安アパートのセットがいい)が囲われていきなりヒョウ柄のドレス着ているものブラックだ。他にやることはないのか。若尾の前での親子遭遇はいくら何でも出来過ぎだろうが、全編覆うブラックユーモア調のため別に気にならない。中盤の用地担当高松英雄の滅亡は余りにも畳み込み過ぎて唖然とさせられるがヤマサツの方法論そのものだ。

用地交渉で神経衰弱の息子高橋幸治という前振りの肉付けだから理にかなってはいる。親父も精神病んでいると云う高橋の「六号病棟」は見事な批評、狂った男に引っ張られた戦後復興であったことか。終盤はこの高橋の再発狂と、被嫡子の反乱が並行して進行してカオスを誘う。一方的に深刻な音楽の極端な盛り上げ方が凄い。ラストの開通式での「軍艦マーチ」はもの凄い冗談。この電車に轢かれるオート三輪は誰が乗っていたのか(息子だったか)ヤマサツらしいカオス状態の終盤だった。劇中に言及はないがタイトルは環境破壊を指摘するのだろう。まだ大映のモノクロ作だが、ヤマサツ長編映画の長尺を飽きさせたいテクは本作ですでに完成している。

(評価:★4)

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