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[コメント] 実録三億円事件 時効成立(1975/日)

あの雨の府中刑務所裏、灰色一色の事件現場に連れて行ってくれただけで大満足なのだが、以降も芳しい出来。金子信雄の代表作として愛したい佳作。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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当時九つの私は時効の夜、時計の針が12時を指すのを見届けたものだった。親の週刊誌覗き見て、平塚八兵衛氏(映画冒頭の登場が嬉しい。男前である)の事件録をむさぼるように読んだ。事件現場の雨の刑務所裏のくすんだ白黒写真は子供を震え上がらせるものがあった。本作には当時の記憶を甦らせてくれる生々しさがある。Wikiではキワモノ企画だったと強調されており、実際そうだったのだろうが、東映らしい撮影と美術はキワモノを生々しく伝えるテクに溢れている。

事件後は想像の世界になるため興味が離れると思いきや、岡田裕介の造形が意外なほど芳しい。いい俳優だと思う(『赤頭巾ちゃん気をつけて』を観れるものにしていたのは彼の実力だった)。「三億円盗むほど賢い人なら、馬買って金捨てるみたいな馬鹿なことしませんよ」という最後の一言など、刑事の眼をかわしつつ自分のマヌケな人生を自嘲する見事なダブル・ミーニングがあった。この人物の背中をもう少し追ってほしかったという不満が残る(犬の種付けってどんな仕事なのか、とか)が、そうすると三億円事件のリアルからさらに話が離れてしまうので仕方なかったのだろう。脚本の小野竜之助は『新幹線大爆破』と同年の仕事。岡田の造形は『新幹線』の山本圭を想起させるものがある。

金子はいい味出していて素晴らしい。平塚八兵衛氏よりよほど刑事らしく、こういう役柄ももっと観たかった。小川真由美を尾行する件の目線の交錯など、スリリングでとてもいい。

犯人はどんな人物だったのだろう。もう死んでいるのだろうか。

(評価:★4)

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