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[コメント] 同胞(1975/日)

マレビトとして村を訪ね歩く倍賞千恵子の女版寅さん。いつにない彼女の屈託のなさが儚くて印象的。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この「ふるさと」という芝居、年100回も各地で上演されているのに青年団の面々は主催の決定までに一度も観ようとしない。この不自然さは、クライマックスの芝居の内容に青年団員各々の想いが重ねられてクリアされるはずだったのだろうが、そこの処がどうにも半端でいけない。

本作で興味深いのは倍賞千恵子の仕事内容で、こんな興行形態が成り立っていたのだということ自体が今や驚きである。統一劇場系はその後、本作に見られるような自主開催から国・自治体の補助や企業メセナ型に転換を強いられ、自己破産に至ったらしい(自主再建もなされているとのこと)。世の世知辛さはこのようなオルタナティブを許さなくなってしまった。

この経緯は経営基盤であった農村のその後の疲弊や高年齢化とパラレルな訳で、本作は寺尾聡に農業を捨てるよう諭す兄の井川比佐志とか、実際に出て行く市毛良枝とか、後ろ向きな視点を隠そうとしないのだが、これらが劇団倒産の遠因になるのであり、比べれば本作での青年団の成功は、残念ながら一時の夢のようなものだ。映画が狙ったものでは絶対にないこの儚さが、皮肉なことにとても印象に残る。テキ屋商売と同じ滅びの美学になっちゃっているのであり、収束の駅での別れの感慨がいや増しに膨れてしまう。

昨今、余りにも地代が安いという背景もあり、帰農するのだという有為の人たちがいて、それはとてもいいことだと思うのだけれど、彼等が本作を観たら複雑になるだろう。昔は若い人が農村にこんなに大勢いたのに行き詰っていたのだ。本作の最後の寺尾聡の感慨は美しいが、もっといい作戦は、ないものなんだろうか。いたたまれない気持ちにさせられる。

こういう地方型のミュージカル、高校で観たのを思い出した(統一劇場系だったかは不明)。相当ベタで歌には引いたが、迫力だけは横溢しており気持ちのいい役者が揃っていた。「ふるさと」も多分そんな芝居なのだろう、もう少し観せてほしかった。演劇については素人だが、ああいう良心の先走る大芝居は80年代には偽善とされて一掃された後、劇団四季みたいな企業で復活してもいるし、自虐の要素を肥大化させつつ野田秀樹以降も受け継がれているように思う(私の観劇のほうは、シラケ生徒たちには荷の重い作品だったのだが、客席がやかましいので幕間で校長が怒り出し、生徒はみんな校長が嫌いなので反撥、後半大盛り上がりに観劇したという変な思い出がある)。

なお、学校の体育館を有償で貸せるのかどうかは条例で決まっていることであって校長の独断でできることではなく、大滝秀史の善意は素晴らしいのだが設定自体に無理がある、世知辛いことに。本作は基本テレビ女優である市毛良枝の若かりし頃の映画での代表作なのだろう。彼女の腕の細さは痛々しいほどで、これじゃ農業はできないよなあというリアルがあった。後半いなくなるのは役柄上仕方ないが、もう少し観ていたかった。

(評価:★3)

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