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[コメント] 生きたい(1999/日)

躁鬱病ギャグは北杜夫が思い出される。老人と病人に本音を語らせる露悪的なピカレスクで、役者が揃っており前半は頗る面白いが後半は地味、収束もよく判らん。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







もう『絞殺』のような無茶苦茶は撮らなくていい年齢になった、ということなのだろう。心優しい展開はありがちだが老境の監督はそれでいいのかも知れない(老人ホームの位置づけは20世紀末はまだ否定的だったのか、については疑問が残るが)。しかしそれではいかんと思ったか、ラストの奇策(大竹しのぶが鴉を銃で撃ちまくる)が何とも唐突でよく判らない。

楢山節考』(このパートは吉田日出子の軽みがもうひとつ効いておらずイマイチ)との対比はこれに比べれば判りやすく、受け入れるべき運命を持たない現代人は老後をどうすればいいのだろう、という疑問ないし諦念なのだろう。しかしそんなもの、万人向けの回答などなく、一人ひとり捻り出すしかない。

もうひとつは、娘を溺愛する三國連太郎と、地獄谷で息子に毅然と帰れという吉田の対比だが、この点三國は何も学ばず、本をクシャクシャに破いてしまう。しかし、その結果が猟銃乱射とはどういうことか。鴉を退治すれば三國が死ななくなるという象徴的行為なのか。この娘らしい父への援護射撃なのか。すると三國は「生きたい」(吉田の常識にはない言葉だ)ではなく「死ねない」ことになるのか。どうも判らん。この収束、詰め込み過ぎだろう。三國は痴呆でない分、『恍惚の人』の森繁久彌などよりさらに気の毒なキャラだが、四の五の云わず腸を直してもらえば万事解決するのにと思う。

障がい者をいかに普通の映画に登場させるか、は積年の課題だが(『オアシス』の公開は本作の3年後ですね)、大竹は流石の好演、仕事などで作業所に関係することがあったが、ああいう声がデカくて本音しか云わない女の子はよくいたもので懐かしい。時すでに90年代末、松尾スズキらの無茶苦茶(個人的には好かない)まで至らない穏健もまた老境の故か。明らかに彼女より異常性の高い大谷直子宮崎美子もありがちなキャラで、いったい何が普通なのか考えさせられるのが本作の美点と思う。

奇妙なカット割りは健在、林光の音楽もいつもながらいい。

(評価:★3)

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