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[コメント] 雪の断章 情熱(1985/日)

相米の最高傑作だろう。アイドル映画を建て前に好き勝手撮って確信犯振りが全面に出ており、神代風に訛った『女は女である』の趣。三度唄われる「さすらひの唄」はジプシーのマーシャ役松井須磨子の持ち歌。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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相米らしい鮮烈な画の連発で『光る女』みたいに重くならないのもアイドル映画の余得。推理劇を積極的に全くの添え物にしたのは表層批評の全盛期らしく、ある意味あの批評運動の頂点に位置する作品だろう。相米に根性棒とミゾグチ流の長回しでイジメられた小太りで愛らしい斉藤由貴。相米作品にもう一度出たいですかと尋ねられて返事ができなかったという逸話がある。

曲馬団の娘のように「さすらいの唄」唄い、パンツ丸見えで雪投げる子役の中里真美。脱出させ引き取る榎木孝明。10年後、「夏の扉」唄うバイク後部座席の曲乗りの転調が実に鮮やか。

自己引用が多い。エレベーターで拳銃撃つ真似する斉藤は『セーラー服』(あちらのエレベーターは昇り、こちらは降りる)。舞台の北海道は次作『光る女』の到達地で岡本舞の舞踏も同系統。彼女のブルジョア邸宅に転がる仏像の首など『セーラー服と機関銃』の三國のアジトみたいな美術だし、バービーボーイズで踊るし、斉藤と世良公則が辿り着く内海は『魚影の群れ』を想起させる。窓の外を行く球に乗った道化人形の挿入は『翔んだ』のクジラと連動するだろう。斉藤の「オロカ」「命令よ」なんていう云い回しも薬師丸系列。

商店街を行くと屋台の風鈴がざわざわと鳴り、葬式の帰りにWhen the Saint Marching onが聴こえる。川の浅瀬を行く10年前の自分を見る断片。花屋で「ゆやゆよん」と山羊の歌唱うショット。田舎の駅舎で出会うピエロ。「買い物ブギ」で川下へ空撮されると白鳥が舞い、斉藤が川に入り白鳥を助けると刑事のレオナルド熊が竹竿で彼女を救う。榎木とふたりで雨の階段を下ると焚火が燃えていて遠方を焚き木持った連中が練り歩く。榎木に平手打ちされて崖下へ2メートルほど落ちる斉藤。恐ろしい撮影でミゾグチ系。

三角公園での三人のキャッチボールの長回しがとても好きだ。左利きの斉藤、紺色のロングスカート。満開の桜の下で三度唄われるのは「さすらいの唄」。私を捨てた母さんが子守歌代わりに歌ったと云われる。トルストイ小説の戯曲化「生ける屍」の主題歌で作詞は北原白秋、ジプシーのマーシャ松井須磨子が唄う。

行こか 戻ろか オーロラの下を 露西亜は北国 はてしらず 西は夕燒 東は夜明け 鐘が鳴ります 中空に

斉藤は岡本の死体を発見して怨恨からの殺人と疑われ、北大受かったのに世良と結婚して九州へ行く約束をしたが、世良は自殺。真犯人は世良だと斉藤は気づいていた。最後は育ててくれた榎木との愛情、みたいな話。榎木の雇うお手伝いの河内桃子はよく判らない人物で、斉藤は振り回されたうえ何も展開なく終わるのが作劇上の欠点か。しかしそんなことは、きっとどうでもいいのだろう。

(評価:★5)

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