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[コメント] おろしや国酔夢譚(1992/日)

無難に纏めた大作で駆け足の薄味だが風物は見処。橇から転落して雪しかないシベリアの大地に一人置いてきぼりにされる西田敏行に極限の寂寥感があった。『ノスタルジア』のオレグ・ヤンコフスキー登場が嬉しい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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当時の大河ドラマみたいな撮影で、冒頭の難破する夜の嵐などしょんぼりさせられるスケールだし、二百余日も漂流していてどうやって暮らしていたのかまるで判らないし、オホーツク〜イルクーツクの大移動のトナカイをどうやって調達したのか判らないし(たぶん船での運搬謝礼で捻出できたのだろうが)、地獄の五カ月がすぐ経過するし、流氷の件は人物たちとワンフレームで収められず迫力がないし、西田敏行のキリスト教入信など簡単に過ぎる。

こういうスキップ感は後半さすがにブレーキがかけられ、女王への謁見と帰国をクライマックスにしている。ルビッチ『ロイヤル・スキャンダル』でエロ女王に描かれていたエカチェリーナ2世は本作でも鉄面皮に描かれていた。演ずるは『彼女について私が知っている二、三の事柄』のマリナ・ヴラディ。この謁見で緒形拳が唸る浄瑠璃(ラストでも長崎の海で唄っている)への想いがどういうものなのか、唐突で判らないのが痛い。佐藤純彌世代には常識なのかも知れないが、折角だから前振りで触れてほしかった。

面白い断片もあった。漂着したアリューシャン列島、番屋で貯蔵して越冬、というのは森繁の北海道漁民の映画でもあったが何だったか。ソ連人に魚所望したら肉しかくれなくて、「こんなもん喰ったら獣になっちまう」と厭がる沖田浩之に無理矢理喰らわせる緒形拳たちが印象に残る。ソ連人は出稼ぎでアザラシの毛皮を収穫。迎えの船難破、次は何年後か知れず。船造る日本人、ウォッカ呑んでいたロシア人(日本人漁民は飲酒の習慣もなかったのかも知れない)も手伝う、という件もちょっといいものだった。

イルクーツク、シベリア総督府のお役人は緒形に、漂流民には生活費が支給されるとサクサクと語る。現在も鬼の入管を持つ日本は、当時でも戻った本国人すら死罪を云い渡されている(最後はデカ頭江守徹の松平定信に許されているが)。本作最大の見処は凍傷で片脚切られる西田敏行の面倒みるアナスターシヤ・ネモリャーエワで、人形みたいにキレイだった。

(評価:★3)

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