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[コメント] 偽大学生(1960/日)

ジェリー藤尾を主演にして袋叩きにして、娯楽大作にはなったが、失うものも多かっただろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画はジェリー藤尾を主演に改編し、冒頭と末尾を加え、原作者から拒否されることになった。それが何なのかが観たかったのだが、観終えて、それは当然だろうと思われた。学生自治会と教授との関係や、逮捕に係る運動学生たちのスタンスは興味深く、運動がスパイ疑惑から崩壊が始まるとは70年代に実際そうなったのだから予見力に優れている。この辺りは原作の力であり、中村伸郎若尾文子のユマニズムを良しとする大江健三郎のスタンスは、現在に至るまでブレずに続いていることが確認できる。

詰まらないのは映画が付け足した部分だ。母が望めば偽学生になり、組織が望めば革命を叫び、裁判所が決めれば精神病になる。ノノちゃん議員にやけに似ている藤尾の造形は一体何だったのか。組織の体質に潰された悲劇であるはずだが、彼の虚言癖との関連が判然せず、どこに所属してもこんな末路だろうと思われるが、それがどうしたと云うのか。チェーホフ「六号病室」のパターンだが、この病者には最初から最後まで正義がない。主演として映画を支える人物になり得ておらず、ただ馬鹿馬鹿しいだけである。

組織と個人の関わりを描き続けた増村作品だが、本作、学生側を深掘りしようとするのに対してその他には及び腰なのは手抜かりなのか一方的なだけなのか。警察の描き方がフラットなのは深作のやくざ映画と比して実に手緩いし、裁判所の誤審はただの運命のようで肝心な処なのに説得力に欠ける。ラストの「保守を倒せ」、看守の「これから増えるぜ、ああいうの」。三島のお友達の白坂依志夫らしいあざとい皮肉で精神病への偏見のかたまりであり、大江が嫌うのは当然だろうと思われる。

映画館では本編の前にSEALsの記録映画の予告編が流され、絶妙の並置だった。SEALsのメンバーは原作をお読みになるといい。本作はご覧になる必要はない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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