[コメント] 小説吉田学校(1983/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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山本又一郎は「本作は政治家賛歌なんです」とインタヴューで応えているが、具体的にどこが賛歌なのかよく判らない。いったい、本作は森繁の吉田茂を褒めているのか貶しているのかそのスタンスがブラブラしており、等身大の生臭い政治家という感想しか出てこない。製作者の意図とは別物に仕上がってしまっている(それともこれも政治的発言なんだろうか)。
前半はいかにも退屈。描写は切り売りで誰に焦点を当てているのかが曖昧かつ場当たり式で盛り上がらず、比べるとやっぱり山本薩夫のメリハリは優れたものだったと思わされる。森繁が記者に水ぶっ掛けるような断片は面白いのだが、そこから膨らまないし続かない。
以下は個人的な意見。GHQに寝技かけたのは事実としても所詮がマッカーサーの下請けとして成立させた単独講和、吉田茂はその過程で天皇の謝罪(退位)をもみ消し、再軍備の論点をあやふやにして後の火種を残し、在日コリアンから国籍を奪い、逆コースを肯定し続けた。こんな人物の「活躍」に賛同しろと云われても無理であるし、講和締結で喜べと云われても困る。
若山富三郎が持ってゆく後半は、かつての派閥抗争を想起させて穿っており面白い。藤岡琢也の土建政治家振りと、病んでへろへろの芦田伸介の鳩山一郎もいい。しかし、主役の森繁が置いてきぼりなのはいかにも拙いし、忘れかけた頃に再登場した森繁が、鳩山に禅譲しない理由は再軍備阻止だ、と突然格好よく宣言しても説得力がない。鳩山より吉田が穏健だったのは確かだが所詮は同じ穴の貉、再軍備の論点は政争の具に過ぎなかったとバラシているに等しく虚しさ広がり、映画が求めたのであろう英雄的な感想など出てきようがない。
池田勇人に全然似ていない高橋悦史も困りもので、森繁の模写の熱心さと落差があり過ぎる。ラストの堀内孝雄の歌唱はニューミュージック連中の保守化を記録して無惨の印象。撮影美術は良好で森繁が猫抱いている窓の外で吹きすさぶ突風に揺れる竹藪などいい画だった。
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