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[コメント] 陽はまた昇る(2002/日)

この合理化のなかの現場任せのワーカホリック物語は『一番美しく』と余りにも似ている。本邦企業が戦後、戦時体制そのままで成長したという説を裏書きするもので、こんなこと繰り返していて、日本経済の陽はまた昇るのだろうかと疑わされる。ビデオの統一規格無視の生臭い企業競争を感動物語で正当化するのも無理筋。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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1973年日本ビクター。VTR一体型ビデオの開発を望んでいた西田敏行は横浜工場(ステレオ部とカラーテレビ部が強いというのが時代)のビデオ事業部長に左遷。赴任当時は業務用VTRを主に扱い、故障が多かった、各部独立採算で横浜工場は本社から借入金があり、売り上げは人件費もクリアしていないと語られている。幹部は混ぜ返す副社長石橋蓮司に正義の社長夏八木勲。全部門人員2割削減の指示。各社ともビデオ開発から撤退していると幹部らは云っているが、その後のビデオ開発競争の物語と齟齬を来しておりよく判らない。

テレビで「私の彼は左利き」唄う麻丘めぐみ見て悦ぶ家族らを眺めて西田は家庭用VTR開発チームを立ち上げるが、ソニーの江守徹が先にベータ1時間録画を発表。こちらは2時間録画だと自信持っている。この時点で西田ははじめて本社に開発を伝えているが、そんなものなんだろうか。ここから10カ月で完成の期限が守れずチームは喧嘩。この辺り割と安いドラマであるが、完成して悦ぶチームを撮影して放映して、それ見て工員がまた悦ぶ件がいい。工場の美術も充実している。

西田らは互換性の統一規格のため各メーカー廻り。通産省の國村隼が消費者のために先発のソニーに規格合わせてくれと説得に来ると、西田は開発者の夢と技術の結晶だ、消費者のためなどきれいごとだと喧嘩。しかしこれ、消費者のひとりとしては國村のほうに道理があったのではないのだろうかと思えてならない。お蔭で我々は混乱していらぬ情報収集に追われ、貸ビデオ屋のスペースは両者並存で半減することになったのだった。通産省はベータで統一規格と通達してくるが、独自開発だから大切にしたいと正義の夏八木社長が発売断行。このときお前は間違っていると西田を怒鳴る石橋蓮司のラストショットには含意が感じられ、この悪役のほうが道理があったかも知れないと映画は保留しているように見える。

西田は妻が脳梗塞でも本社すっ飛ばして大阪の松下(ビクターは子会社)に向かうワーカホリック。それは美しいが、代わりに夏八木が行けばいいのにと思わずにいられない。信頼されない幹部なのだろう。老境で恍惚とした松下幸之助(仲代達矢の模写が面白い)に褒められ、後日VHSで行くと連絡が入り、松下が強い業界地図はVHS大きく傾く。「ソニーさんには悪いが、あとはお客さんに白黒つけてもらいましょう」という仲代の西田宛の手紙朗読だけで、統一規格の件はお終いにされるのであった。社員食堂に捻じ込む協力会社(下請けと呼ぶなと西田は云う)社長の井川比佐志が余りにもハマり役。彼も含めて人文字描いて西田の退職見送る胡散臭いラストはいかにも企業映画。

(評価:★2)

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