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[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)

戦場に行かない連中の為に、兵士は偶像としてまつりあげられる。20061123
しど

911から続くタカ派的な雰囲気の米国で、ゆり戻しのための作品がいろいろ作られてきたが、いよいよ大御所登場、といった感のある作品。

米国の第二次世界大戦の象徴である写真を巡るさまざまな作為。見る者それぞれがイメージを膨らませるあの写真に、「やらせ」であるとは小耳に挟んでいた私も、あくまで激戦の果ての「やったぞー!」な瞬間を切り取ったイメージを思い浮かべていた。しかし、事実は全く違っていたし、あの旗を掲げた後も、戦闘が続いていたとは思いもよらなかった。

戦争宣伝に偶像を使う者達の術中にはまっていたのか、単なる無知か、写真撮影以外にも、勝手に想像していたことはいろいろ違っていた。写真に写った兵士達のその後や、戦費確保の為に大量の国債を売る必要に迫られていた米国の財政など、何より、戦時とはいえ米国本土の日常は続いていて、当然ながら、戦争に行かない者も大勢居たこと。国債宣伝パーティに集まる政治家や金持ち達のきらびやかな光の中で、戦場から呼び戻された「英雄」達は、戦場同様に米国本土でも駒として扱われる。

戦場では、敵も味方も誰もが平等に死が訪れるが、日常における本土での死は決して平等ではない。富める者と貧しい者との間に横たわる歴然とした溝。そして、よっぽど律儀で無い限り、富める者は戦場には行かない。果たしてあの写真の星条旗は、溝を挟んだどっち側に立っていたのだろうか。

「英雄」とされた三人が掲げた旗や、その中の「インディアン」(現在では「ネイティブアメリカン」が一般的なので久しぶりに公の場で聞いた)がポケットにしのばせた小さな旗。星条旗の意味する現実が、ジワジワと伝わってくる。

(評価:★5)

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