冷静に見ることができなかった。

細かい演出とか、きっとあるんだろうけど、そんなの、いまはどうでもいいって感じだ。

映像をぶれた感じにしたのも、音楽とダンス（リズム重視）も必然だと思う。冒頭の暗闇から、私たちは二つの世界を同時に体験していたのだと思う。

視覚を失いつつあるものの見る現実の「世界」と、「不幸なことは決して起こらない」ミュージカルの世界だ。

セルマの夢見るミュージカルの世界は、あくまでもクリアな映像じゃなかった？音も立ち上がってくるように感じなかった？

わたしには、セルマが一歩一歩確かめながら辿った線路が、映画の構造そのもののように思えてならない。

最後のあたり、辛くなってふと視線をずらしかけたら、面会室の壁に、落書きがあるのを発見した。

「Ｉ　LOVE」の意味だろうね、Iとハートが鉛筆書きしてあった。私が映像から視線をはずそうとしても、この映画はきちんとそこに「ロープ」を張ってくれていたんだね、つまり。

ビョークも、ドヌーブも、すごい良かったけど、それ以上に、この監督、もっと好きになってしまいました。