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[コメント] 小さき勇者たち 〜GAMERA〜(2006/日)

子供が主人公ということで徹底した原点回帰をしている、と思わせる一方で、昭和ガメラと決定的に違う点も存在する。それさえあれば……。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……さて、本作からは、子供が主人公かつ「小さき勇者たち」という題名からして、昭和ガメラへの原点回帰すなわち“子供向け”にしようという意図を非常に感じる。とはいえ演出が子供向けだったかというとそうでもなく、主人公の少年がガメラ(トト)と出会うまでが少々たるく、トトと子供達の日常を描く場面は面白いと思いつつも、ジーダスが出現するまでが長く感じた。昭和ガメラ大好き人間の(怪獣馬鹿な)自分としては、凶悪な敵怪獣あってこそ応援したくなるのがガメラなのである。

 ……しかし、ジーダスが出現していよいよ面白くなるかと思いきや、どうにも取っ付きが悪い。子供達がガメラをパワーアップさせるために赤い球をリレーしていく、というアイデアは良いし、それでガメラが空を飛び(この瞬間は甘崎さんと同様に感動した)見事ジーダスを倒す。金子ガメラとは違い、子供向けの原点回帰をしているにもかかわらず、何か釈然としないものが残った。

 何かが足りない。

 何だ? 昭和ガメラとどう違う? 子供に向き合ってるはずなのに、何でこうなるんだ?

 フト、昭和ガメラのワンシーンが頭に浮かんだ。子供達がガメラに声援を送る。「ガメラーっ、火炎噴射だー!」

 あ、そうか! 足りないのはそれだ。

 昭和でも本作でも、ガメラの戦いを子供達が見守っているという点では同じだが、距離としては本作の方が断然近いところにいる。ましてや主人公はガメラに赤い珠を授けてパワーアップさせるのだから、近くなくては困るのだ。しかし昭和ガメラが遠いかというとそんなことはなく、必死に戦うガメラを応援したくなるようにきちんと出来ている。それを成立させているのが子供達の「声援」なのだ。

 今も昔も怪獣同士の戦いを「プロレス」に例えられることは多く、「怪獣プロレス」というとむしろ怪獣映画を揶揄するように感じる人もいるだろう。だが昭和ガメラにおいて監督の湯浅憲明氏は、そう呼ばれることを逆手にとって徹底的に分かりやすいバトルを心掛け続けた。怪獣にセリフが無い以上、何がどうしてどうなったかは全て「画」で説明しなくてはならない。そこで怪獣同士に明確な殺陣を付け、動きの一つ一つをきちんと描写する必要がある。そしてその挙動一つ一つに対し、子供達は一喜一憂する。そしてピンチの時には応援する。「ガメラーっ、頑張れーっ!」「危ない、ガメラ、気を付けろ!」「いいぞ、ガメラ!火炎噴射だ!」等など。ガメラに対して何かが出来るわけでもないが、必死に応援することでその思いを伝えようとしている。嘘だと思ったら昭和ガメラシリーズを観てみるがいい。そうなっているから。

 では本作はどうかというと、確かにガメラとの距離は近い。主人公は産まれた時からガメラをトトと名付け、どんどん成長する様を見守り続けてきた。赤い珠で力を与え、ガメラがジーダスに勝つきっかけを作った。ガメラ(トト)のことを一番に思い、そしてガメラもまた主人公の声に答えるかのように、目をパチクリと開き優しい声を出す……。細かい表情を出せるようになった特撮技術の進化を喜ばしく思うが、それ以外のシーン、とりわけジーダスと戦っている時はどうだったか?

 ガメラとジーダスの一挙一動が、どうにもはっきりしないのである。尻尾で叩かれたり舌が貫通したり、挙句ビルの中に突っ込んでしまったりする以外の殺陣が見えてこないのだ。生物感を出すために多少動きは付けても殺陣は付けなかったのかもしれないが、それがあるのと無いのとでは、バトルシーンの面白さが倍近く違ってくる。これは金子ガメラにおいても言える事で、怪獣そのものの動きにリアルさだけを追求してしまうと、動きはそれっぽく感じても、その戦いに持ったりした感しか抱けないというジレンマを抱えている。怪獣同士のバトルだけ見れば、あんなに馬鹿な怪獣映画はないと思わせてくれた北村ゴジラの方が断然面白いとすら思ってしまうのはどういうことか。

 今回のガメラもそれは変わらなかった。その間この映画は、何としてでも赤い珠をガメラに渡すという子供達のドラマを徹底的に描き続けた。トトが小さい時は物凄く近い存在なのに、大きくなってジーダスと戦い始めた途端にこれである。これでは近いのか遠いのか分からない。田崎竜太もその辺だけは追求出来なかったのか……

 ただ「子供を主人公」とするだけでは原点回帰にならない。ゴジラもそうだが、ガメラだって十分奥が深くて難しいものなんですよ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)わっこ[*] 甘崎庵[*]

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