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[コメント] ブレッド&ローズ(2000/英=独=スペイン)

 こうなりたかった、という姉の声。そっちの方が胸に響く。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ローサは守らなければならないもののために自分を捨てた。自分の意志で守ると決めたもの。その決意はどれほど強かったのだろう。どれほど辛かっただろう。それに引き替え、希望に溢れる妹。きっとその夢を壊したくなかったんだろう。嫌なことも黙って耐えて、密告者呼ばわりされる覚悟も決めて、管理人になってロペスのように嫌われる覚悟をしてまでも守りたかった家族と妹。

 マヤにそんなものはあったか?彼女が守っているものは自分だけ。密入国斡旋の男を振りきり、ウェイトレスの仕事をあっさり辞め、給料のために戦う。守らなければならないものが自分以外にはない。その自由が強さにつながるのだろうけれど、ちょっとこの女、周りを見なさすぎ。

 姉の秘密を知った後、そのことについて思い悩んでいるようには見えない。自分は「透明人間にも権利を」なんて言っているけれど、そのくせ自分を支えている人たちのことをほとんど考えていない(ように見える)。しかも、組合のサムもそんなキャラだし。こういう人たちかなり苦手。

 マヤはつまんない強盗で強制送還される。ちょっとこの強盗の仕方はな〜。そりゃばれるに決まってます。マジで世間をナメてます。そして彼女は故郷に帰る。ローサが、病の夫を抱え、仲間を裏切ったと言う思いを抱いて残るアメリカ。妹たちの活動のおかげで少しはましになった(かもしれない)賃金や保険。その妹はのびのびと活動したあげく強制送還。入国斡旋のための金は無駄になった。彼女が帰ってしまったからには、姉はこの後故郷に送金し続けるのだろう。妹と直接顔を合わせる機会がなくなった分、すべてを知られてしまった気まずさは薄らぐのだろうか。最後は笑顔で見送った。わがままで無垢なままに帰っていく妹は、姉にとって理想の人物だったかもしれない。「自分のことしか考えられないわ」とはじめに言っていたのは姉だった。本当はそうなりたかったのかもしれない。

 私が観たかったのは、ローサの話。守らなければならないものを持つからこその弱みを持つ人が、希望を見いだしていく物語。無垢なヒロインが他の人たちの力を煽る、っていうのは良く言えばカリスマってやつなのかもしれないけれど、ケン・ローチが今まで目を向けてきたのはそんなカリスマの光がギリギリ届かないところにいるローサみたいなキャラたちじゃなかったの?でも、彼女のようなキャラをちゃんとマヤの対極に作り上げたところにローチの眼差しの優しさがあるのかもしれない、ということで、ローサに免じて4点。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)maoP Yasu[*]

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