[コメント] 新・仁義の墓場(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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それまでどこにも居場所のないはぐれ者だったんだろう。どこに行っても疎まれて忌み嫌われて、友達なんてひとりもいなかったにちがいない。そんな野良犬が、ヤクザの親分の命を(なりゆきで)助けたことで、はじめて居場所を与えられる。それも「叔父貴」というご立派な身分つきで。
しかし、はぐれ者のはぐれ者って奴は、とことんどうしようもないのだ。与えられた居場所でも、いつも不安でしようがない。それまで持っていなかったものを与えられたからこそ、それを失うのが怖くてたまらないのだ。だから愛してくれる者にこそ真っ先に刃を向ける。自分を拾ってくれたオヤジをハジき、そんな自分を匿ってくれた兄弟分を撃ち殺し…たったひとり、愛し愛された「女房」すら自分のいる地獄に引き摺り下ろすことしかできなかった。なんて馬鹿なんだろう。そしてそれは、なんて悲しいことなんだろう。
石松陸夫はどうしようもなく馬鹿で、どうしようもなく孤独で、どうしようもなく絶望しきったひとりの男だ。『タクシードライバー』のトラヴィスがそうであったように。石松がヘロインでラリってパンクを聞きながら部屋の中で銃を乱射するシーンはまさにそのものだ。こんな奴が死ぬときには血の雨だって振るにちがいない。
そんな石松に運命を狂わされる女たち。石松に夫を殺された井上晴美の哀切極まりない泣き声。そして、きっと彼女もずっとひとりぼっちで、だから自分を犯した相手なのにそいつを愛してしまって、石松と一緒に地獄へ堕ちて行く有森也美がすばらしく綺麗だった。はじめてヘロインを打たれてハイになるシーンの彼女はまるで堕天使のように儚げで、哀しく美しい。
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