[コメント] ぼくんち(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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西原理恵子の同名漫画の映画化作品。これは私の大好きな漫画で、今でも時折読み直すのだが、何というか、コマの間の雰囲気がとても良い。つらい現実を笑いにくるみ込み、世間に対する責任やら人情やらから背を向けてながら、それでも幸せをつかもうとする人間達の模様を見事に描ききっていた。正直、才能って凄いなあ。と思わされた作品だった。
一方、原作漫画に思い入れが分、映画になってしまうと、どうしても点数が辛くなってしまう。
正直、これは私が思っていた「ぼくんち」とはまるで違っていた。原作そのものが小さな物語の積み重ねで構成されるのだが、そこには一貫したものが確かに存在していた。三人の生活はいつまでも続くことはない。必ずどこかで終わりが来る。その終わりを全員が分かっていながら見ないようにして危ういバランスを保っていたように思えるのだが(一太は実際に家を出てしまうし)、なんだかここでは、それだけで充足した三人の生活ばかりが強調されてしまっていたように思えてしまう。だから最後の二太との別れはあんまりにも唐突すぎて、説得力が無い上に、「ああ、やっぱりそうか」と思わせないところが問題。終わりがあることが分かっているからこそ、その危うさが面白かったのだが。
そこで思うのだが、映画では勝手な人間が少なすぎたんじゃないかな?そんな風に思えてくる。原作では人を思いやるというのはほとんど無い。仮にそれがあるとしたら自分の都合が良いからと言うだけ。例外が主人公の三人くらいなのだが、それが家族の内的崩壊を促していた。それが面白かったのだが、妙に映画では人を思いやる人間が多すぎてる感じがしてしまった。何というか、普通の人情話にしてしまってるようだった。
それに二太ばかりが目立っていたため、早く大人になろうと努力する一太の存在感が全然足りない。ちんぴらのこういち君に弟子入りのような形で一緒にいるのも、結局は自立して、姉ちゃんのかの子もひっくるめて家族を自分で作っていきたいという思いと、最後は失敗してしまうその哀しさが重要なんじゃなかっただろうか?
原作ではほとんど無かった安藤君の物語を強調することで、逆に重要であるはずのこういち君の物語も語らなかったし、それにくっついて出てくる一太の物語も無くなってしまった。結果として、三人の家族は外的要因だけで家族が崩壊してしまった。これが一番問題だったんじゃないかな?…内的につぶれる物語を私が観たかっただけなんだが。
キャラクタそのものは悪くなし。観月ありさは前作の『ナースのお仕事 ザ・ムービー』で思いっきり外していながら、ここではむしろ肝っ玉母ちゃんっぽくなって、地に足が付いてたし、真木蔵人演じるこういち君は原作よりもなんかしっかりしてる(原作で笑いながら一太を半殺しにするようなことが、ここでは真剣な顔になってる)。それに安藤君訳の今田耕司は自由度が高かった分、良い演出が出来たと思う。
一本の映画として観る限り、悪くはないんだけど、原作のファンとしてはやっぱりまだまだ。って感じ。
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