[コメント] 秀子の車掌さん(1941/日)
高峰秀子の登場シーンは後ろ姿、まだ幼さの残る顔のショットに先立って、擦れた言い回しの声(「だって、口癖になってんのよ」)を聞かせるところなど、子役ではなく職業女優としての成瀬の期待が伺える。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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成瀬と高峰を、映画を通じた師弟関係とするなら、その芸の道を脚本に織り込んだのが本作であろう。牧歌的なアイドル映画に見えて、その中身は旅芸人モノを踏襲している。地元の人間であるバスの乗客との没交流がその根拠で、乗合バス=芝居小屋、社長=興行主、小説家=師匠と読み替えればすっきりする。
この作品はまた発見の映画でもある。いつも見ている光景に歴史背景があるという驚き、それを余所者から教授されるということ、そして「恩に報いて芸を提供する」「その上で頂けるご祝儀はありがたく頂く」といったフリーランスの心得もまた知らずに伝承される。無論、その先には「己に厳しく、芸の道は人の道」「人生は旅である」といった思想が続くのであろう。
そして成瀬は、発見をフィルムに定着させようとする。名所案内の口上で固有地名が発せられたときの私の驚きを、成瀬は予見していただろうか。あの時代の歴史背景から、日本という国土がこの先急速に変容するであろうという不穏な予想が彼の胸をよぎったことは想像に難くない。何の変哲もない田舎道が、後世の日本人にとって、美しく郷愁を掻き立てる現風景になることを、成瀬巳喜男は知っていたに違いない。
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