[コメント] とらばいゆ(2001/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
里奈(市川実日子)が恋人・弘樹(村上淳)に料理が得意なのを隠して、彼に料理を任せっ切りにしていた事と、一哉(塚本晋也)が麻美(瀬戸朝香)に、それなりに自分も将棋が打てるのを隠していた事。夫や恋人の前では強がっている姉妹が、義兄や妹の恋人の前では泣いて縋りついてしまう事。弘樹はミュージシャンとして売れていないので里奈の部屋で主夫的役割を担い、妻より稼ぎのある一哉は、妻に主婦としての役割を務めてほしいと思っている事。等々。こうした合わせ鏡のような四者の関係は緻密に巧みに考えられたものであり、脚本の出来はなかなかのもの。
姉妹はどちらも自分のパートナーに対して嘘つきなのだが(「仕事に行く」と言って競馬に行く)、最後の二人の勝負では、妹がわざと負けてもいいと持ちかけ、姉がそれを拒絶する、という形で、少なくとも将棋に関しては嘘は一切無し、という決意が描かれる。そして、嘘の無い勝負を貫いた結果、プライベートでもパートナーに正直な気持ちを素直に出せるようになる、という、登場人物の感情や状況の持って行き方も上手い。この、仕事とプライベートとの和解は予定調和的なものではあるけれど、それに説得力を持たせる為の過程を経てそこに辿り着かせている点に、好感を覚える。
だが、姉妹が互いに相手のパートナーの前で流す涙はどこか、台本通りのタイミングで流しました、といったインスタントな軽さが漂い、麻美のラストでの晴れやかな表情も、どこか空々しい。ここぞという所での、演技の拙さが致命的。師匠である大杉漣も飄々としすぎており、もう少し勝負事の厳しさを感じさせてほしい所。
将棋を指す背中に迫るショットは力があるが、実際に盤上の手に悩んでいる空気がまるで伝わらず、扇子を小刻みに開閉する手許なり表情なりを捉えたショットも、「仕事で上手くいかずに追い詰められる麻美」ばかりをクローズアップするせいで、却って彼女の、他の何物でもなく「将棋」に打ち込んでいる、という説得力から遠ざかる。麻美がホテルで研究に没頭しているショットからさらっと本番の勝負の場面に繋いだり、真剣勝負の最中に長閑な劇伴を流すなど、この監督は本当に将棋はどうでもいいんだな、と。
脚本はよく練られているが、その分、頭で考え過ぎというか、人物の配置図を押さえるという以上の演出が為されていない。映画としての繊細さが欠落している。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。