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[コメント] おもひでぽろぽろ(1991/日)

大人になり、素直じゃなくなった自分が、久しぶりにこの映画を観賞した。論理的に湧き出る嫌悪、感覚的に抑えられない好感。自分は、この作品に対し、アンビバレントでしかいられない。
kiona

「土地が狭いだの、人情が薄いだの、ぐだぐだ文句言いながら都会にいるぐらいなら都会なんか捨てちまえばいいだろ? 田舎へ来い。田舎へ来て、百姓の嫁になれ!」

「見ろ! この景色を。日本はなぁ、百姓がこしらえたんだよ! 百姓の生き方が一番日本人らしいんだ。共生、共存、共産が一番正しいんだよ!」

 のようなメッセージが炸裂する。最後のババアの強引さときたら…

 或いは、回想の少女時代に登場してくる両親の何と理不尽であることか。一昔前にあっては最大公約数だった、そんな家族像。でも、彼女をそんな家庭に育った世代の最大公約数と称するのは…

 いい年したOLが小学五年生なんて、誰もが記憶の片隅に追いやって引っ張り出すことがないような過去をいちいち持ち出すのは、ひとえに厳しい両親のもとで抑圧され続けた末っ子の個人的欲求が噴出してきただけのようにも見える。

 いかに過去の自分であれ、意識しない限りにあっては、過去の自分も自分の中にしっかりとしまわれている。それがあのように幽体離脱して出てきてしまうのは、もはや過去の自分が自分の中に“いない”証拠であると。

 人生に二度の羽化はない。さなぎの時期が二度あると思うのは幻想に過ぎない。彼女は自意識とは明らかに反して成虫なのだけれども、幼虫であった時期が忘れられない、忘れたくない、自分が成虫であることを認めたくない。

 この物語は、成虫の自分が幼虫の自分に付き纏われる話ではなく、成虫が干からびた蛹、捨てるに捨てられない自分の抜け殻を捨てに行く話であると、自分にはそう思えた。そのまさに捨てる瞬間がエンド・クレジットの背景となっている。

 過去の自分にさよなら。過去の自分も手を振ってくれている。感傷的でナルスティック。でも、自分の過去を切り離すというのはそういうことなのだと思います。

 口やかましいメッセージはともかくとしても、大人になりきれない一匹の成虫の物語として、突き放せない側面を持った映画です。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] ina peacefullife[*]

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