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[コメント] エースをねらえ!(1979/日)

この一球は絶対無二の一球なり…。数々の名セリフや名場面はカットされているけど、いい作品になっていてよ、ひろみ。
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







山本美容室さんやアルシュさん同様、私も中学校の時に軟式テニス部に入っていました。ちょうどテレビアニメ版「エースをねらえ!」の再放送で人気に火がつき、リメイク版「新・エースをねらえ!」が始まった頃。当時は、厳しい練習に耐えて勝利を目指す登場人物たちの姿に自分を重ねながら見ていたものです。

実は私も原作のマンガは読んだことがないのですが、新旧テレビアニメ版は一度ならず見ており、いろいろなエピソードが詰まっていて、とても濃い内容だったように記憶しています。抜擢されたひろみに対する激しい妬みやいじめ、特に代表から外された音羽との確執、また、藤堂との恋やマキとの友情、さらには宗方コーチと緑川蘭子の葛藤などなど。しかし、最大の見所は、やはり刻々と変化していくひろみとお蝶夫人、そしてひろみと宗方コーチとの関係でしょう。ひろみの成長に伴って、お互いの想いがすれ違ったり疑ったり、あるいは信じ合えたり愛しあったり…。

そう、『エースをねらえ!』はよくできたスポ根ドラマ、青春ドラマであると同時に、大いなる人間ドラマでもあるのです。マキ(ほんとにいい友達だなあ)を除けば、実際にはあり得ないようなキャラクターばかりですが、ひろみの成長を中心に等身大の若者を描いた大河ドラマと言っても過言ではない、と今さらながら感じます(ややオーバーかな?)。

前置きがかなり長くなりましたが、この映画版。1本の映画にまとめる都合上、いろいろなエピソードや数々の名場面、名セリフ(コメントに書いた「この一球は絶対無二の一球なり」もその一つ)などはもちろん省略されていますが、皆さんのレビューにもあるように、テレビ版のエッセンスを取り入れて、見事にまとまりのある映画になっています。映画版『未来少年コナン』がトホホな出来だったり、同じく『宇宙戦艦ヤマト』がテレビシリーズの単なるダイジェスト版といった感じだったのと比べても、素晴らしい出来でしょう。

また今回、この作品を十数年ぶりに観て改めて気付いたのですが、当時は「ひろみ、遅くてよ」といった調子のお蝶夫人の言葉遣いと「お蝶夫人」や「加賀のお蘭」というニックネームの古風さばかりに目がいっていましたが、ひろみやマキ、藤堂や千葉たちも日常的にかなり文語的なセリフを連発し、それが独特の雰囲気につながっています。

もう一つ、(確かテレビ版でもそうだったけど)この作品では、余計な部分をうまく省略してあり、いわば省略の妙とでも言うべき描き方が印象的でした。例えば、ひろみの自室は、ベッドやカーペットはそれなりに描かれているけど、部屋全体や家がどんな感じかは何もわからないし、母親も声だけしか出てこない。テニスのシーンでも周囲は省略されている。作品の舞台は横浜らしく、港やカモメは描かれているけど、街並みは殆ど描かれていない。ひろみが走って丘に上ると、信じられないくらいはるか下の方に港が見えたりする不思議な感覚。当時の技術や予算上の制約もあったのでしょうが、こういう描き方でも不自然にならないどころか、逆にごく自然に独特の雰囲気を醸し出していて、内容ともども『エースをねらえ!』の世界を創り上げているような気がします。

5点はちょっと甘いかもしれないけど、新旧テレビシリーズへの評価と私の青春の思い出の一コマでもあったということも含めて。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)べーたん アルシュ[*] さいた uyo[*] 水那岐[*]

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