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[コメント] 終わりなし(1984/ポーランド)

「死者」の視線。(レビューは本作及び同監督作『トリコロール/青の愛』のラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







生きていくために自分の信念を曲げなければならない瞬間が、誰にも等しく訪れる( たぶん)。それを仕方ないとわりきって考える自分がいる一方で、信念を裏切る自らの不誠実さを責め立てる自分が他方で存在する。本作はそんな二つの自己の間で揺れ動く人たちを描いた作品と受けとった。

冒頭の唐突な死者の語り。印象的な登場によって、死者が死者自身の意識をもって存在しているかのように見えたが、とどのつまり、あれは主人公の女性が生み出した「他方の」自己に思えた。亡き夫の姿は、彼女自身に向けられる厳しい視線の具現化だったのではないか。

家族と再び日常を過ごすために、自己を自己たらしめてきた尊厳をも捨てろという老弁護士。結果的にはそれを受けいれ家族との絆を回復する組合の闘士。その姿を見届けた後、静かに命を絶つ主人公。それまで目を合わせることのなかった夫と最後に目を合わせる。残された子どもはどうするのか、『トリコロール/青の愛』とは正反対の結び方にやりきれなさが残る。だが、自分が自分に正直であること、誠実であることの証しをたてていくにはこのような選択、いやこのような宿命もありうるのかもしれない。死者の視線が突き刺さる。

(評価:★3)

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