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[コメント] なつかしい風来坊(1966/日)

有島とハナの補完し合う、いわば二人で一人という関係性が、映画をコクのあるものにしている。森崎脚本、初期の傑作。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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気持ちの良い人情喜劇であり、収束は『街の灯』や『アパートの鍵貸します』を想起させる。世の中はこうあるべきだ、という理想があるのがいい。しかし、このラストだけ取れば類型的なものだ。むしろ、ここから逆算して何が語られていたか、が重要だろう。本作はこれに成功したから、ラストに説得力が生まれている。

ひとつは有島一郎の造形。彼はハナ肇を導く知恵者の位置にいるが、同時にハナを理想としている。有島にとってハナはなつかしく、窮地においては窓の外から声が聞こえてくる男なのだ。この補完し合う、いわば二人で一人という関係性が、映画をコクのあるものにしている。ラストでハナは未来を手にしているが、有島は孤独に没落している。この対照は残酷ですらある。このような形で再会できた有島の胸中、そこには喜びと寂しさが背中合わせにあるだろう、これを想像するとシンミリしてしまう。老年とはそうしたものだろうか。

もうひとつは有島の周辺事情。これは刺すようにリアルだ。いつもながら巧みな中北千枝子ほか、家族の冷淡さは山口崇を得て頂点に達している、この有島を集団で単身赴任に追いやる論法は強烈。また、役所での立場も生々しい。私も元役人だが、よくこれだけリアルに撮れるものだと感心した。松村達雄のようなスピーチだけ巧い局長はこの職の典型、松村の模写は抜群だ。

ハナが妙に金持ちなのは、余罪ありという展開で判る仕掛けになっている。特に語られないが、これを倍賞千恵子は許しているのが、圧縮されたラストで知られることになる。これを素敵だと思うか嫌がるか、は人によって違うだろう。 「法の外で生きるには優しくなければならない」はディランの詞だが、森崎は一貫してこの視点で撮り続けているのが、この初期作品で確認できて嬉しい。

山田・森崎コンビはこの纏まった秀作に飽き足らず、次にあの破綻だらけの『一発大冒険』を撮ることになる。これも凄いことだと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ[*] 水那岐[*]

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