[コメント] 怪人マブゼ博士(1933/独)
2人は何者かの侵入に気づいているが、気づいていないフリをする。工場の横の道を逃げるホフマイスターを俯瞰から横移動でとらえるショット。道路上でのドラム缶の爆発炎上。この画面造型には驚かされる、つかみはバッチリのオープニングだ。
続いてローマン警部のシーン。ホフマイスターから電話がかかってくる。こゝで、ホフマイスターは、かつてローマンが目をかけていた刑事だったが、不正を働きクビになった人、ということが分かる。電話に出ないローマン。取り次ぐ部下のミュラーがいいキャラ。出ると、ホフマイスターは、やっと突き止めたと云うが、絶叫して電話が切れる。こゝの暗転画面を挿んだ銃撃ショットの見せ方にも唸る。
本作は1922年の『ドクトル・マブゼ』の続編だが、マブゼの犯罪については、大学の階段教室で、教授−マブゼが収監されている精神病院の院長でもある−バウムが講義する、というかたちで上手く紹介する。ホフマイスターは命を取りとめたが、彼も正気では無くなってしまい、同じ精神病院に入れられる。マブゼの描写含めて、精神病院内、病室などのシーンにおける二重露光を活用した表現主義的造型も見ものだ。
本作の主人公はローマン警部であり、彼の捜査シーンが主軸のプロットと云えると思うが、悪役側−それはマブゼの意思を実現しようとする者たちの動向も肌理細かく描かれる。忘れがたいキャラが何人かいるが、中でも、ケントは重要な位置づけだ。恋人リリとの恋愛譚が尺を取って描かれるのだ。2人の出会いの場面はフラッシュバックで挿入される。前科者のケントが職安で自棄になっていると、職員のリリがお金を貸すという場面だ。もう2人の作劇上の役割りは自明に思えて来る。
中盤のアクションが乏しい部分は少しダレる感もあるが、ケントの部屋にリリが来て、愛しているを云いまくる場面の後、裏切り者と見做されたケントとリリが捕えられた辺りから、実に面白くなる。アジトのカーテンの奥から聞こえるボスの声は、リモートシステムだった、というのは今でこそ予想がつくが、当時は驚きがあっただろう。2人は部屋に閉じ込められて、3時間で死ぬと云われ、カチカチという音がする(時限爆弾の時計の音だ)。こゝからタイムリミットサスペンスになる。ちなみに、爆弾のカチカチという音から暗転して、早いカチカチの音が聞こえると、ゆで卵をスプーンで叩く男に繋ぐ、なんてカッティングも見事なものだ。
一方、クロスカッティングで描かれる、アパートの階段とドアを挟んだ、警官と悪役たちとの銃撃戦の場面も見応え充分だ。警官たちは階段下にいて、誰もドアに近寄れないが、ローマン警部が来ると、彼だけがドアの側まで近寄る、その際、撃たれて帽子が飛ばされる、なんてシーンもカッコいい。最終盤の化学工場の炎上シーンも凄い物量で、ミニチュアのショットもあるが、消防車の到着や、自動車での追いかけはコマ落としで見せる。チェイスシーンでは、踏み切りの汽車接近サスペンスはイマイチだが、馬車や、対向車の長いトラックなんかは上手く使う。今見ても、実によく出来た、面白い活劇だと思う。
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