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[コメント] 仔鹿物語(1947/米)

グレゴリー・ペックのナレーション。フロリダらしい森と湿地帯。俯瞰で森の中の家と農場を見せる。ジェーン・ワイマンが玄関で「ジョーディー」と何度も呼ぶ。泉の側で昼寝しているジョディ−クロード・ジャーマン・Jr
ゑぎ

 笹で作った水車。この冒頭で、鹿の群れ、リス、アライグマの親子を登場させる。裸足で駈けるジョディ。ペックの元へ。冒頭数分で、親子の関係をさらっと分からせてしまう演出だ。ガミガミと口うるさい母親のワイマン。

 前半の一番の見せ場は熊狩りのシーンだ。いや、全編で一番のシーンかも知れない。スルーフットという名前の熊。この場面ではジョディも靴を履いている。湿地帯での犬と熊の対決。犬の大奮闘。ペックは発砲するが暴発してしまう。彼は逆発(バックファイア)と云う。熊と犬の闘いは、凄い迫力なのだ。

 銃を壊したので、隣家のフォレスター家へ行き、新式銃を手に入れる。と同時にジョディとフォレスター家の末っ子、脚の悪い(体が弱い?)フォダーウィングとの交友シーンを見せる、というのも自然な展開だ。

 タイトルの仔鹿が最初に登場するシーン周りもとても見応えのあるシーケンスだ。家畜の豚が盗まれた、というところから始まり、森の中で罠を発見する。フォレスター家のか?と訝っていると、いきなり毒蛇の登場。ペックが噛まれ、さらに、間髪入れずに唐突に雌鹿が登場。ペックは鹿を撃つ。鹿の内臓(肝臓と心臓?)で、蛇の毒を吸い出そうする。といった最中に、小さな仔鹿を見せるという、よく考えたら奇異な演出でもあるが、息つく暇なくスピーディに畳み掛ける流れになっている。

 そして、仔鹿はすぐに大きくなる(若い鹿になる)。鹿と一緒に跳ぶように走るジョディ。鹿の群れとの縦構図や、鹿の群れが、高速度撮影(スローモーション)のようにジャンプするショットを繋ぐ場面も、一つのハイライトだろう。全編、驚異的に美しい撮影だが、審美的な意味での画面の美しさでは、やはり、この仔鹿とジョディが森を駈ける場面が抜きんでているように思う。ということもあり、エンディングでも、こゝがフラッシュバックされるのだ。

 さて、俳優に関して云うと、ジョディにとって、後半は特に劇的な展開になるからということもあるだろうが、演じるクロード・ジャーマン・Jrの演技が、とてもオーバーアクトに見える。それもあり、本作のペックは珍しく抑制の効いた、胡散臭さのない造型に見える。ま、ペックも新人に近い頃なので、後年のイヤラシさが希薄であるとは云えるだろう。ただし、ワイマンとの比較で云うと、彼女がある意味、不安定な分裂気味の情緒に描かれている(鹿を殴るシーンが酷い!)ので、ペックが聡明過ぎる、カッコ良すぎる、というイヤラシさも感じる。聡明さについて、ワイマンも分担すべきだったのではないだろうか。ペックも、人間的な弱さをもっと出しても良かったのではないか、と思う。

 また、前半の大熊スルーフットが再登場しなかったり、豚が盗まれた件も放ったらかしになる、その他、フォレスター家のレム−フォレスト・タッカーの扱いも中途半端だし、といった作劇上の過不足は指摘できるだろう。クラレンス・ブラウンらしい立派な映画だが、ちょっと粗も目立つ出来だと思う。

#備忘でその他の配役等について記述。

・フォレスター家の面子。男6人兄弟か。父親はクレム・ビヴァンス。長兄はチル・ウィルスだが、この頃はとても痩せている。あと、川を渡った町の雑貨屋でヘンリー・トラヴァース。レムが船乗りのオリヴァーと取り合う女性は、ジューン・ロックハート

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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