[コメント] ほえる犬は噛まない(2000/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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いったいどういう話になっていくやら、既存からの連想をはぐらかす、犬、いや人を食った筋運び。「それって結局何の映画?」と、映画を一言で情報化し即座にわかってしまう ような人たちにパンチを食らわすような監督の挑戦的な姿勢を感じる。
話がそれちゃうけど、各国の配給会社の宣伝担当者たちもパンチを食らった何人かで、DVDの特典で見たのだけど、キーアートがシュール、青春ドラマ、青春コメディ、おしゃれ風と韓国、台湾、香港、日本とそれなりに本作の一面をとらえる仕事ぶりで面白かった。日本のイラストを使ったバージョンはなかなかオリジナリティがあって印象深かったのだけど、あれで、愛犬家がこの作品を一番見ることになったような気もする。合掌。
後のポン・ジュノ作品を見ているから思うのだが、この監督の世間へいだいている一種の悪意のような感情は本作から健在で、軽くてシュールでブラックな味わいの中に、結局は成功を手に入れながらやましさで気が晴れない主人公の表情でしめくくるこの物語を通し、金で職が買える教育学界の体質、目先で結果のでない夫を尊敬できない妻、勝手にペットを飼って平気なマンション住民、こっそり犬鍋を楽しむ清掃管理人、そもそもが手抜きのマンションと(規則を守らないのが韓国人とダイレクトな指摘もあり)やましさなしでは成り立たない世間というものの姿を全体として浮かびあがらせている。それを純真さの象徴である黄色パーカーを用いて俎上にあげていくのだ。
DVD特典の絵コンテを見て思ったのだが、この黄色パーカーの少女こそこの作品の絶対的な動機であり軸なのだろう。しかしここにペ・ドゥナがおさまったことはどういう奇跡だろうか。美形揃いの韓国女優なら黄色パーカーですっぽり頭を隠して鼻血を出すことでギャップから生じる笑いはとれても、あのマンションの廊下の走りっぷりと邪気のない性格を表現することはできなかったろう(私って面白いでしょって意図が少しでも見えるとこの役はかなり減点だ。この役をあざとくなくやれるっていうのが彼女のいいところ)。「お前のことだろ」といわんばかりに、ラストで観客の顔に向けて光をキラキラ反射させるヒロインたちだが、あまりいやみでないのも彼女の表現したあざとさのない天真な人のよさというキャラクター表現にかかっていたと思う。
余談です。
『天空の城ラピュタ』で、男装のヒロインの帽子が脱げて髪の毛が広がる場面では、誰もがそこに宮崎監督のフェティッシュなものを感じたと思うが、ここでは逆にヒロインが顔面以外をパーカーですっぽり隠すところでキュンとなるようになっている。あれ何でパーカーで覆う必要があるんだろうか、と思わせない確信に満ちているものがある。思うにポン・ジュノ監督はいわゆる女性が女性らしく発露している性というのがキライなんではないだろうか? 『グエムル』じゃドゥナは終始ジャージだし、他の映画で女性らしい女性っちゃ「無惨な被害者」って感じで(『殺人の追憶』じゃ焼肉シーンに連結しちゃうし)。今回も奥さんにハンマーを投げつけられ痛みにうずくまるイ・ソンジェの執拗な描き方の感じに、ちょっと憎悪のようなものさえ感じるのだが…。大友克洋が最初の頃美人キャラをまったく描かなかったようなものかな? そういえばこの作品なんかちょっと「童夢」っぽいかも。
あと、監督の世間に対する悪意という点で言えば、「飲酒の強要」と「車のサイドミラー」には何かことのほか特別な感情を感じるのだが。
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