[コメント] この世の外へ クラブ進駐軍(2004/日)
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終盤の展開には驚愕する。これは「アメリカ兵の物語」だったのか。萩原聖人とシェイ・ウィガムの「死ぬな」「逆だよ。殺しに行くんだ。戦争なんだから」というやりとり。ウィガムを追悼するラッキーストライカーズの演奏シーンにおいて自らのこめかみに拳銃を突きつける兵士。その彼を優しく受け止めるピーター・ミュラン。続いて次回に朝鮮に派遣される兵の名が読み上げられる。そこで呼ばれた者が見せる表情の複雑さ。これほど「戦地に赴く兵士」の感情を繊細に描いた映画を他に挙げることは即座にはできない。しかも舞台は「朝鮮戦争」を背景にした「日本」であり、さらにこの映画は「戦闘シーンを持たない」というディスアドヴァンティッジを抱えながらそれをやってのけているのだ。
歴史にまるで無知な私が云っても説得力はないだろうが、「朝鮮戦争」が「第二次大戦(太平洋戦争)」や「ヴェトナム戦争」と比べて世界史的な重要性が極端に小さいということはないだろうと思う。それにもかかわらず、朝鮮戦争について語られる機会は(私たち日本人の間でさえ)今挙げたふたつの戦争の場合よりも遥かに少ないのではないか。そこには少なからず「映画」の責任もあると思う。「映画」(とは取りも直さず「アメリカ映画」のことですが)はまともに朝鮮戦争を取り上げたことがほとんどない(『M★A★S★H』? あんなフザケタ映画!)。第二次大戦なら英雄的に描くことができる。ヴェトナム戦争であれば狂気的に、自虐的に、内省的に描くことができる。そしてもちろんどちらも反戦的に扱えるだろう。しかし朝鮮戦争は? おそらく、アメリカ映画は朝鮮戦争に対する態度をいまだに決められていないのだ。『この世の外へ クラブ進駐軍』はアメリカ映画が「放棄」したところのアメリカ兵を描いた、アメリカ映画に対する批評的な一撃でもある。
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