[コメント] その男、凶暴につき(1989/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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私、乗り物を使ったアクションシーンが嫌いなんです。敵と会話の始まる余地が、ほぼ無いのがその原因です。
生身の格闘シーンであれば会話を使って緩急を加えられ、またドラマチックな演出を出来るのが良いのです。ボスキャラ的存在がカーチェイスによって死ぬことが滅多に無いのも緊張感を欠く要因です。
総合的には好きな作品である『スターウォーズ』『太陽を盗んだ男』『ファースト・ミッション』といった作品群も、乗り物シーンのおかげで、テンションがすっかり冷めてしまいました。
しかし例外もありまして、『フレンチ・コネクション』と今作だけは手に汗握りました。
ところで先日ブックオフに行き、ビートたけしの『頂上対談』を立ち読みしていたところ、淀川さんとの対談にこのようなものがありました。淀川さん「その男、凶暴につきの 車のシーン良いね」たけし「ハリウッドがやってないことだけをやったらああなりました」淀川さん「あれはね、あなたきっと観てないと思うけど●●←題名失念の古い映画 とフレンチ・コネクションで既にやってるのよ」 これを読んだ途端私の自尊心は満たされ、得意気な顔を浮かべながら意気揚々と帰路についたのでした。
と、詳しい技術的なやりとりの内容は忘れましたが、両作には共通点があるようで、それが天邪鬼気質の私の琴線に触れたようです。
車を使った追跡シーンへの前フリも素晴らしいです。子供がワイワイ楽しんでいる映像をじっくりと撮る。私の脳内はノスタルジーで満たされ、こう考えます「ヤク中という最も不浄な存在に近い人間との対比映像だ」ところが予想は裏切られました。「ノスタルジーの記号」たる金属バットを使ってのフルスイング殴打。今まで映画の暴力シーンを見てドン引きした経験は、今作のこのシーン一回きりです。
殴打され哀れに痙攣する警官の生死を心配しているところで、容赦なく追跡がはじまる。ガタガタ揺れる画に先ほどの殴打シーンの余韻がシェイクされ、不気味な笑顔を浮かべるたけし……私の中で様々な感情が混ざり合い、異様な興奮に包まれました。
映画館の前で通行人に流れ弾が当たるシーンもびっくりしました。二度使えるネタではないですが、初見では衝撃的。
こんなに新鮮かつ衝撃的な画を持った内容で、邦画の娯楽作としてはかなり上出来の作品なのに、たったの7億8000万円の興行収入――そして淀川さんからは作品が当時嫌われた。なんとも不条理極まりないと感じます。対するフレンチ・コネクションは、40年近く前にして50億円の興行収入。そしてアカデミー賞を五部門受賞! この差は一体何ぞや? フレンチ・コネクションは確かに面白かったですが、画作りの面でそこまで冴えていたでしょうか?
急遽監督を頼まれながら、野沢尚の脚本を遠慮無く大幅に書き直し、恨みを買いながらも「悔しいが傑作」と思わせたたけしは天才です(妹を殺すというアイデアにも驚いたとか)。
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