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[コメント] キートンの警官騒動(1922/米)

平易に哀愁立ちこめる劇構造に無表情な滑稽が印象深いGOODサイレントコメディ
junojuna

**ネタバレ注意**
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 作品の完成度に立ち現れる感慨というよりも、キートンの作為のスタンスに感傷が生まれる稀なる出来栄えである。冒頭、キートンの求愛がヴァージニア・フォックスに体よくかわされてしまう。ゲートに断絶されるキートンの無表情は詩的な空間を漂わせ、劇の発端としての主人公の立ち上がり方は静かな面持ちにして動的な展開を予想させるふくよかな施しである。本作ではキートンの表情、佇まいが、そうした設定の中に印象的なカットでもって構成されて、滑稽の陰で光る趣深い感傷を湛えてアンビバレンツな様相を呈することになった。一方、コミックワークのハイライトは、やはりキートンの身体能力を存分に発揮してみせた警官との追いかけっこの最中に見せるシーソーシーンであろう。もはやこうしたアクロバット芸を見るにつけ笑いを越えたインパクトを叶えて、ゆえに芸としての強度に感嘆せざるをえない芸人根性には諸手をあげて漏れる吐息である。また、警官の増殖イメージは単に追いかけっこの量的インパクトを越えて、ある種強迫観念的なイメージを喚起させるキートンのナイトメアな象徴性が伺えて注目させる。そしてラストシーン、ヴァージニアにふたたびそっぽを向かれ絶望したキートンが、自ら錠を開けて警官の群れに飛び込むというシュールな帰結は、なぜか60年代末期学生闘争の狂騒を描いた『いちご白書』のラストを思わせ、どこかしら閉塞的な情動の気配を匂わせて殊更目を凝らしめる。エンドマークのキートン帽がかかった墓石というのはひとえにコミックといってよいのかどうかなんとも気にかかるオチであり、そこを思うにつけ、キートンの無表情が淡い感傷の彼方に浮かばれる不思議な作品であった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)赤い戦車[*] 3819695[*]

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