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[コメント] グッバイ、レーニン!(2003/独)

古い世界とのお別れには、ちゃんとした儀式が必要なのだ。それが国家であろうと家族であろうとも。040519
しど

旧東ドイツのある家族の話。 人生の中で一番幸福な世界である子供時代。 その舞台の「国」が消滅することと、 保護者であった母が倒れることが、主人公に与える影響。 姉の身勝手に対して一人必死に母を支えようとする主人公の弟は、 嘘を塗り固めて小さな世界をアパートの一室に構築する。 夫を失った母が傾倒した共産主義は、母が昏睡状態の間に一変する。 当然、弟の生活も一変しているのだけれど、 新しい世界に変わることを受け入れることは、古い世界との別れでもある。 母に対して必死に「古い世界はまだある」と嘘を続ける主人公の思いは、 アイデンティティの喪失と再構築の過程で大切な行為なのだろう。 それは、去っていくモノにとっても、満足感をもたらすはずだ。

子供時代の未来に対する希望と不安を飛行士に託すのは、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』 のようであるし、 国を失う悲劇は、ユーゴスラビアを舞台にした『アンダーグラウンド』を連想し、 失う世界の悲しみは、日本の過疎地を舞台にした『萌の朱雀』を思い出す。 そこに、滑稽な『アメリ』のような描写でユーモアを散りばめる。

苦言を呈すと、後半、やや、メロドラマな展開が安っぽく感じられるのだが、 政治的背景と上手くミックスされることで、丁度良い加減ではある。

日本では、アイデンティティを確認出来るほどの国家的価値観は希薄だ。 また、馴染みの深いハリウッド映画も、フィクションを前提にした空虚感が伴う。 反対に、強烈な国家的アイデンティティによる束縛のみが 国民の生き甲斐であった旧共産国家が、 突然、国としてのアイデンティティを放棄したならば、 当然、混乱は内乱に及ぶこともあるし、 西側の「自由」を不自由と感じる国民も多かっただろう。

東西ドイツは、外から見ている限り、平和な合併にしか見えないけれど、 家族の視線にまで下がれば、合併がもたらした困惑はあっただろう。 そんな困惑に満たされたこの作品自体は、見る者に共感をもたらす程、 きちんと整理・計算された作品に仕上がっている。 受け入れやすいドラマ性と緻密な描写とで、 重いテーマへ自然に思いを馳せらせるこの作品、見て損の無い一作。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sadahiro[*] プロキオン14[*]

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