コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] スイミング・プール(2003/仏=英)

嫉妬女の隘路。(レビューはラストに言及、『バートン・フィンク』『ポーラX』のネタバレ要素もあり。)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







デビッド・リンチ作品のごとく、キーポイントとなる小道具や人物がいろいろ登場したが、もっとも強く印象に残るのは嫉妬のイメージ。

新進作家の輝きをうらやむ女性作家、若い女の瑞々しい肢体や奔放な性をうらやむ初老の女、成熟した女が醸し出す魅力に男を奪われ嫉妬する空っぽな頭のあばずれ女、自分の家庭をもつ男をうらやむ自分の家庭をもたない女、自分が本当に書きたいものを出版させようとしない編集者への愛憎、これらのイメージはみな主人公シャーロット・ランプリングの中に体現されるものであり、同時にこれらは過去のフランソワ・オゾン作品に繰り返し登場してきた悪意にほかならない。

果たしてあのラストはノベライズ本の解説にもあるとおりの、「開放」を体現するものであったのだろうか。過去オゾン作品では海のシーンが多用されたのに対し、今回はプールが前面に出された。彼の作品において、動きに富んだ海の水が何かが奪われ何かが失われることへの前兆を描いていたとすれば、動かずたゆたうプールの水は何らかの閉鎖性、沈殿する思いを描いていたのではないだろうか。少女のまま老いた庭師の娘のイメージが喚起するのは、生の悦びを十分に味わうことのないまま初老を迎えた、嫉妬に閉じこもる主人公の哀しい半生だった。現実から虚構へ溺れていく作家の姿、『バートン・フィンク』『ポーラX』と同様に、そこに一種の悲劇性を感じずにはいられない。(★3.5)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)ALOHA[*] トシ[*] ねこすけ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。